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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第18回

2014/12/26
数あるハイレゾ音源から、選りすぐりをご紹介する当連載。第18回は、レコーディング&ミキシングエンジニア、深田晃氏の手腕が冴えわたる最新録音『天使のハープ ~ 5台のヒストリカル・ハープがいざなう、中世のダンス・パーティ、ダ・ヴィンチのアトリエ、マリー・アントワネットのサロン』です。
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
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『天使のハープ ~ 5台のヒストリカル・ハープがいざなう、中世のダンス・パーティ、ダ・ヴィンチのアトリエ、マリー・アントワネットのサロン』 (96kHz, 192kHz/24bit、DSF5.6MHz/1bit)
/西山まりえ


今回ご紹介する太鼓判ハイレゾ音源『天使のハープ』ですが、実はレコーディングから取材を進めておりました。大ヒットハイレゾ音源『天空のオルガン』に続く新作がレコーディングされる。しかも、私の住む軽井沢で。レコーディング会場まで車で数分の距離ですから、迷わず手を挙げ取材に行ってきました。

録音が行われた軽井沢コルネは、巨大なパイプオルガンが常設されたホール。静寂の森に佇む聖堂といった印象で、最高のロケーションといえるでしょう。天井が高いので、一般的なスタジオ録音とは異なる、軽井沢の空気感を含んだハープの音色が収録できるのではと期待が高まります。


実際に住んでみてわかったのですが、軽井沢は非常に音の良い土地と言えます。空気が澄んでいるのは、もちろんひとつの要因でしょう。楽器でもスピーカーでも、音が発せられるスタート地点と私たちの耳の間にあるのは“空気”です。この空気がキレイならば音の伝搬がより良くのは、なんとなく想像できます。他には、標高1000メートルということで、気圧の低さもあるでしょう。私も軽井沢で缶ペンキの蓋を開けたところ、気圧の差で爆発し大惨事となった経験があります。軽井沢でテニスやゴルフをやられた方なら、パコーンという音が気持ちよく響くのに驚かれた経験があろうかと思います。空気のキレイさ、気圧の低さに加えてもうひとつ、電気ノイズの少なさが音の良い要因に挙げられるでしょう。避暑地としてのトップシーズンを過ぎれば、軽井沢は人が極端に少なくなります。録音した軽井沢コルネは特に住居が少ない地域です。人が少ない、家が少ないということが、どれだけ電源ノイズの少なさに貢献するかは容易に想像できます。オーディオ好きの方には自宅専用電柱を建てるケースがありますが、そのマイ電柱を超えるくらい、録音した11月の軽井沢ならば、その周辺一帯の電気を独り占めにできるのです。

さて、録音開始前のリハーサルで、早速モニター用ヘッドホンを用意していただいたので、私も楽しみにチェックしてみました。「ん?なんだか空間が狭いかも。超高域ノイズを拾っているような・・・」

エンジニアさんは録音準備に忙しそうでしたので、ホールに入って自分で原因を探ってみました。私は今回のレコーディングにスタッフとして直接関わるわけではありませんので、あまり出しゃばった真似はできません。あくまで取材の範囲で超高域ノイズの原因を探りました。


見つけました。間接照明なので気づきにくかったのですが、蛍光灯でホールが照らされています。試しに、軽井沢コルネのオーナーさんにお願いし、蛍光灯を消してみてもらいました。お昼だったので、雰囲気アップのみの間接照明ですから、消しても特にリハーサルの邪魔にもならないでしょう。蛍光灯を消した瞬間、音の蓋が外れたように、天井方向へ余韻が広がっていきます。演奏者、エンジニアはもちろん、関係者全員で驚きました。その後、今回のレコーディング中は、その蛍光灯は夜でもずっと消されたままだったとのことです。私でなくとも誰かが気付いた蛍光灯ノイズ問題でしょうが、一曲でもレコーディングがスタートする前に見つけられて本当に良かったです。

マイクの特性とは面白いもので、音楽とノイズを区別なく収録してしまいます。一方、人の聴覚は便利にできており、意識を向けた音しかキャッチしません。時計のコチコチ音やパソコンのファン音が普段は聞こえてこないのはそのためです。マイクに音楽のみを拾わせるためには、人が工夫する必要があります。ホールの蛍光灯ノイズは微々たるものです。しかし、ノイズが少ないのとノイズが無いのはイコールではなく、マイクにとっては大きな違いとなります。またひとつ私も勉強になりました。


レコーディングのうち、曲数で6割くらい立ち会えました。音楽が誕生する瞬間に居合わせる経験は、本当に素晴らしものです。ハープは5種類のうち、3台の音を聴けました。中でも、1775年製のハープは感動もの。現代製作のハープは高域弦が「ピーン」と鳴るのに対し、1775年ハープは本当に「ポォ~ン」と鳴るのです!オールド・ハープの演奏が始まった瞬間、その音色に誘われ音楽の神様が軽井沢コルネにやってきたように感じました。ギターやベースでオールド楽器の魅力は良く知っています。(といっても、ギターなどはせいぜい1960年代製ですが。)そんなオールド楽器と同じ感触が、ハープの世界にもあるのだと驚き、そして魅せられました。


レコーディング機材的な話となると、352.8kHz/32bit録音というところは皆さん興味があるところでしょう。レコーディング中に興味深いエピソードがあります。私は演奏中リアルタイムでヘッドホンモニターして聴いていました。演奏の合間には録音状況を確認するため、録音したデータをプレイバックします。つまり、リアルタイムとプレイバックという2種類の音を、同じヘッドホンで聴くことができたのですが、驚いたことにその2つの音が違ったのです。明らかにリアルタイムモニターのほうが音の鮮度が高いと感じました。

最初は、リアルタイムとプレイバックで、ヘッドホンアンプまでの再生経路が違うのだと思っていたほど。休憩時間にエンジニアさんに確認すると、再生経路は共通とのことです。演奏をそのままデジタル化しながら再生しているか、録音したデータを再生しているかの違いで、ここまで音の良さに差がでるものかと愕然としました。

352.8kHz/32bit録音をもってしても、リアルタイムの演奏をモニターしたものに敵わないというショック。ですが、今ではこう考えを改めました。リアルタイムモニターといっても、同じ352.8kHz/32bit規格の再生。ということは、352.8kHz/32bitデータには、音楽の鮮度がそのまま記憶されているはず。これを引き出すのが、オーディオにおけるハイレゾ再生の醍醐味なのではないでしょうか。


レコーディングから約1か月半が経ちました。いよいよ届いた、完成版ハイレゾ音源『天使のハープ』。「太鼓判として認定できなければ、取材レビューが書けないな~」という心配は、全くの無用でした。断言しましょう。この完成したハイレゾ音源は、レコーディング時のリアルタイムモニターよりも高音質です。

352.8kHz/32bitマスターよりも、リリースされたハイレゾ音源のほうが高音質とは、不思議に思われる方が多いことでしょう。しかし、それは音楽だからです。ミックスダウン、マスタリングと作業が進むにつれ、人の手が音楽に加わっていきます。音楽は成長する可能性を秘めているのです。

実際に完成した『天使のハープ』を聴くと、音のひとつひとつが美しく磨き抜かれたという印象。マスターの荒々しさが無くなったのではなく、小さな響きまでも大切に大切に扱われています。

レコーディング時にも感じていましたが、位相表現が素晴らしいです。つまり、音の立体情報に乱れがないということ。数本のマイクで収録した音を混ぜてひとつの音楽をしているのに、まるで演奏をそのまま空間ごと捕まえてきているような立体感が得られています。こんな位相の良い録音は、なかなか出会えるものではありません。

いや~、エンジニア深田晃さんの素晴らしい匠の技に脱帽です。352.8kHz/32bitマスターを聴いた人でも分かるか分からないかの微妙な薄化粧が、ハープの音色をより艶っぽく色鮮やかに描き出します。そう、この音はモノトーンではなく、カラフルに再生できてこそ合格です。

音の良さにも驚きましたが、レベルの小ささにもビックリ。といっても、実際に音楽を聴くと、そんなに小音量ということもないのですが。その点について、エンジニアの深田氏に質問してみました。以下、その回答です。

「レベルに関しては、わざと音量を上げるような処理は行っていません。また楽器の持つダイナミックレンジをそのまま活かすようにしていますので、小さく感じるかも知れません。ただピークはそれなりにギリギリのレベルには達しています。 プロツールスなどのサンプルピーク(デジタル領域でのピーク)ではなく、トゥルーピーク(D/A変換でアナログにした時の最大ピーク)で 0dbTPを超えないレベルにしていますから、サンプルピークでみると3dbほど低いレベルになります。この場合は、安価なD/Aコンバータで も絶対に歪みは生じません。」


西山まりえさんの演奏は、とってもエモーショナル。ハープという楽器に興味があったので、休憩中に西山さんにこんな質問をしてみました。「ハープって、あんなに沢山の弦があって、調律が成り立つものなのでしょうか?音痴になってしまうのでは(笑)?」西山さん曰く、「楽器の調整自体はもちろん、不思議と演奏者によってもチューニングが合っているかどうかが決まるんですよ。」とのこと。なるほど、西山さんの演奏を聴いていると、本当にハーモニーが美しい。ハープという楽器は、神様が天使のために作ったとしか思えぬ、不思議な魅力があります。

『天使のハープ』は、必ずアンプのボリュームを少し上げて聴いてください。そうすれば、目の前に5種類のハープが出現します。寒かったあの日の軽井沢の澄んだ空気とともに、その美音が広がっていく快感。そしてこのハイレゾ音源のサウンドは、演奏中の352.8kHz/32bitマスターをモニターしていた音よりも素晴らしいと、体験してきた私が保証します。2014年末、素晴らしい音楽の贈り物が届きました。352.8kHz/32bitでレコーディングしたといった規格うんぬんを抜きに、音楽を聴く喜びが素直に感じられるハイレゾ音源として太鼓判を押させていただきます。

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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。