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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第5回 The Who 『四重人格』(後編)

2014/11/21
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
<第8回>「Deodato (前編)」
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第5回
The Who『Quadrophenia - 四重人格』(後編)


『四重人格』(192kHz/24bit)
/ザ・フー

『Quadrophenia[Super Deluxe]』(96kHz/24bit)
/The Who



さて前回に引き続きThe Who、73年の名作「Quadorophenia(四重人格)」について。今回はそのハイレゾ・ヴァージョンを掘り下げてみたいと思います。

「四重人格」の2年前にリリースされた前作「Who’s Next」は頓挫したコンセプトアルバム「Lifehouse」が生んだ産物ではありましたが、「Won't Get Fooled Again(無法の世界)」など多くの代表曲を含む誰もが認めるザ・フーの代表作です。名プロデューサー、グリン・ジョンズ(レッド・ツェッペリン、ザ・スモール・フェイセス、ザ・ローリング・ストーンズなど数々の大名作を手がけています)による録音とミックスも素晴らしく、まさに名作と呼ぶにふさわしい一枚でした。

一方の「四重人格」はメンバー自身によるプロデュース。前作に引き続き数曲の録音にグリン・ジョンズが参加したものの、ほとんどの楽曲では後にハートやキッス、オジー・オズボーンやサバイバーなどのプロデューサーとして有名になるロン・ネヴィソンがまだ経験の浅い無名時代にエンジニアを担当。当時完成したばかりだったバンドのプライベート・スタジオを主に使用したこともあって、その音質は「Who’s Next」に比べると若干劣るようにも感じられます。

ピート自身も「仕上がりには、当時のバンドとその周辺に置かれていた厳しい状況が影を落としてもいた」として、6年後に映画「さらば青春の光」サントラで収録曲のいくつかをリミックス、さらに1996年にはジョン・アストレイによる全編リミックスで再度CD化、その後はこのCDが正規認証盤とされ、一時はオリジナル・ミックスが入手困難な時期もありました。

しかし、暴力的な躁状態の狂乱から、ドラッグが抜けた後のブルーな抑鬱状態と共に訪れるノスタルジックかつロマンティックともいえる奇妙な感情まで。そんなアンビバレンツな若者の精神を音楽で表現するかのように、ハードロックな演奏から急転直下でスーパー・センチメンタルでメロウな世界へと1曲の中で目まぐるしく変化するザ・フー独自の展開。それが最も堪能できるアルバムはこの「四重人格」以外にありません。

制作過程では様々なトラブルこそあったものの、今ではピート自身も「私がもっとも誇りに思うザ・フーのアルバムだ」と語り、近年はこのアルバムを再現するツアーも行っています。

前回も紹介しましたがe-onkyoでは英国オリジナル・アナログ・テープを基に作成した2012年最新DSDマスターからのオリジナル・ミックス・ハイレゾ音源が以前より配信され、海外のザ・フー・ファンの間でも人気を博していました。

オリジナルはロジャー・ダルトリーの歌声が抑えめにミックスされたことが難点のひとつとして挙げられ、96年のリミックスではそこが大幅に改善されているのですが、やはりレコードを聴きこんだ耳に一番愛着のあるミックスはこのヴァージョンだと言えるでしょう。確かにボーカル・バランスこそ低めですが、楽器同士の絡みや一丸となった塊感がその分味わえるこのミックスの方が個人的にも好みです。

ハイレゾで聴く「四重人格」は時にオリジナル・アナログ盤をも凌駕するかのような魅力が味わえることにも驚きました。今まではあまり興味を惹かれなかったタイプの曲もハイレゾで聴くと演奏の妙に耳が惹かれることもあり、細部までじっくりと聴きいってしまい、その結果新たな魅力に辿り着く喜びを得ることができるのです。

「四重人格」はギター、ベース、ドラムという基本的なロックトリオとしての演奏のもの凄さはもちろん、そこにジョン・エントウィッスルがひとりで重ねまくって録音したホーン・セクション、ピートが弾くピアノや、ストリングスを表現したかのような黎明期のシンセサイザーなどが絡むことで構成された「ロック・シンフォニー」に仕上がっていることが特色です。

メンバー自身の手によるプロのアレンジャーに編曲を頼んでは決して実現できないであろう、その独創的なアレンジメントが奇跡的なバランスで成立している様が手に取るように聴き取れて、これぞまさに「耳で聴く映画」。最初から最後まで全編まったくダレることなく集中してその世界に浸れる至福の時間を過ごしました。

さらにこの11月には「Quadrophenia (Super Deluxe)」も配信スタート。これはその内容から、2011年に未発表デモを含む豪華ボックス・セットで発売された「四重人格(ディレクターズ・カット)」収録のCD4枚をハイレゾ化したものかと思いきや、さっそくダウンロードして音源を聴いてみたところ、なんと明記こそされていませんがそのディレクターズ・カットの音源とも異なるマスターのようです。

ボックスの本編は1996年リミックスの最新リマスター音源を採用していましたが、今回のハイレゾ配信「Quadrophenia (Super Deluxe)」には1973年のオリジナル・ミックスが使われています。しかも新たなリマスターが施されているようで、以前からe-onkyoで配信している「四重人格」よりも音圧高めで迫力ある音に仕上げられています。

僕が想像するに今年海外で発売されたBlu-ray Audio版「Quadrophenia 」にボーナス収録されている「1973 audio」というオリジナル・ミックスの最新ハイレゾ・リマスターと同音源ではないかと思うのですが、残念ながらまだ未入手なので聴き比べが叶わぬ状況です。

ピートが「四重人格(ディレクターズ・カット)」ボックスセットのライナーノーツで「この作品に然るべき敬意を表して」と記し、1973年オリジナル・ミックスのリマスター音源を採用したと明記していたにもかかわらず、何があったのかは不明ですが発売されたボックスには注釈が付けられ、1996年リミックスの最新リマスター音源が収録されたという迷走もあったので、今回配信された「Quadrophenia (Super Deluxe)」がボックス企画当時の意向に添った決定版だと言えるのかも知れません。

しかし今回の「Quadrophenia (Super Deluxe)」は96khz/24bit、以前から配信している「四重人格」は192khz/24bit。レートもリマスターも異なるため、かなり大きな印象の違いがあります。僕はよりナチュラルにフラットにトランスファーされたように感じる「四重人格」192khz/24bitをグッとボリュームを上げて聴いた時の耳に心地良い感覚も好きですが、Super Deluxe版のバキッとした迫力も捨て難く、最新版を好む人も多いかもしれないなと感じます。いずれにせよファンはすべてのヴァージョンを揃えて聴き比べしたくなる、嬉しくも悩ましい状況が生まれました。

そしてこの「Quadrophenia (Super Deluxe)」の目玉は何といってもピートによる全編のデモ・トラックが収録されていること。数曲でのドラムを除き、宅録多重録音による一人きりの演奏と歌で綴られたこの全25曲のデモ集こそ、音楽家ピート・タウンゼントの才能を雄弁に語る音源だと言っても過言ではありません。

「四重人格」にはザ・フーのキャリアの中でもこの作品でしか感じることのできないメランコリックで独特なムードがあるのですが、これに大きく貢献したのは作曲中にピートの自宅スタジオに導入されたピアノだったと言われています。バンドの演奏が重ねられる前のシンプルなデモではその基調となるムードをより強く感じ取ることができるのです。

またデモの中にはハードにロックするバンドとは合わないとされ本編では採用されなかった、ピアノやシンセをサウンドの中心に据えた未発表曲も多くありました。ポップでロマンティックなピートの側面が表現されたそれらの楽曲は、僕のようなピート・ファンにはたまらない贈り物であると同時に、やはり彼の個人的世界とThe Whoとの関係、バンドマジックというものについても深く考えさせられるものでした。

J.Dサリンジャーの小説「ライ麦畑でつかまえて」にも通ずるような若者の精神的葛藤と成長を描き、さらには崇められる者と崇める者(ロックバンドとファンとも言えます)との複雑な関係をも描いたこの「四重人格」はいつの時代にも普遍的な作品だと言えるでしょう。

歌詞はもちろん、ピートが設定したストーリーも作品を理解する上で重要な要素なので、現状のハイレゾ音源には歌詞やライナーノーツが付属していないことが残念でたまりません。もしまだこのアルバムを体験したことがないという人は(羨ましい!)願わくば日本盤CDで歌詞カードやライナーノーツを読み、もしくは映画「さらば青春の光」を観た上でこのハイレゾ版を体験することを強くおすすめしたいです。その感動は人生を変えるほどのものになるかもしれませんよ。そしてもちろんアナログ、CD時代からの愛聴者には、いますぐこのハイレゾ・ヴァージョンでの再体験をおすすめいたします。

ではでは、また次回お逢いしましょう。


片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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