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【新連載】ヴァイオリニスト寺下真理子の「音楽の神様に愛される音楽家になるために」 第2回

2019/02/06
『AVE MARIA』『ロマンス』の2作のソロ・アルバムがオーディオファンからも高い人気を誇るヴァイオリニスト、寺下真理子。ソロでの活動のほか、最近では「美少女戦士セーラームーン Classic Concert」への出演やテレビのバラエティ番組への出演などでも注目を集める彼女の新連載、ヴァイオリニスト寺下真理子の「音楽の神様に愛される音楽家になるために」がスタート。演奏家がどのようなことを考え、どのように音楽を捉えているか、など、演奏家視点でクラシックをご紹介します。
◆第2回「私とロシア音楽」

クラシック音楽が大きく発展した場所の一つに、ロシアが挙げられると思います。

19世紀半ば以降、チャイコフスキーを始め、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、プロコフィエフ、ショスタコーヴィッチ、ストラヴィンスキー、などの後の大作曲家達が次々と誕生し、後世に残る偉大な作品を数多く残しています。
当時のロシアにおける音楽、文学、バレエ等の芸術の発展は著しかったようです。
バレエにおいては、フランスからもたらされたロマンティック・バレエが、ロシアで古典的な要素が付け足され、現在のバレエの礎となるクラシック・バレエへと変化し確立されました。
文学の方でも、トルストイやドストエフスキーなどといったロシアを代表する文豪が活躍し、今もなお世界中の人に読み継がれています。こうして、その当時のロシアでの芸術の発展は、世界に大きな影響を与えたのではないかと思います。

個人的な見方ですが、私は’芸術’が発展する場所は、暗く、苦しい所が多いのではないかと思います。
ロシアも私の印象としては、暗いです・・・(ロシアへ実際に行った事はありませんが・・・)
ヨーロッパ全域に言えますが、冬の寒さも厳しく、空気も乾燥しているからか、太陽の光が淡く見えて、どこかいつも儚いんです。
私が留学していたベルギーも同様です。
留学時代、ヨーロッパの石造りの家に反射する太陽の光がこんなに芸術的に美しく見えるのか!と驚き、その壁をずっと眺めていました。ヨーロッパの光をぼーっと眺めるのが大好きでした。
ヨーロッパは、光が燦々と降り注いでいる日は少なく、曇り空の日がとても多いんです。
彼らにとって、光というのは、いつも求めているものの一つです。
ですから、レンブラントの光の絵が生まれるのも、納得です。
芸術家たちは、抑圧された環境の中から生まれた、渇望する想いを芸術作品に反映させているのではないでしょうか。

気候だけでなく、歴史的にも厳しい時代を経ています。
20世紀に入ってからのロシアは、第一次世界大戦、ロシア革命、社会主義国家の発足、第二次世界大戦と、激動の時代へと突入していきます。

私はこの一冊の本を読んで、この当時の作曲家がどのような想いで作曲をしていたかを知り、衝撃を受けました。




ショスタコーヴィッチが、体制下でのプロバガンダ音楽として、交響曲第5番を作曲したのは有名な話です。しかし、自身の想いと、体制の狭間で葛藤していた様子がこの本には書かれていました。
体制に反対する者、前衛的な作品を作り出した者は次々と粛清されていく中、命をかけて作品を生み出し続けた、この時代に生きた作曲家達はどれほど苦悩しただろうかと・・・。

そんなショスタコーヴィッチも元々は体制に迎合した曲を作っていた訳ではありませんでした。
歌劇「ムツェンスク群のマクベス夫人」やバレエ「明るい小川」では作品が前衛的で体制にそぐわないものとして、プラウダ批判を受け、そこで’人民の敵’とまで評されました。
その後、さらなる批判を浴びてしまう可能性があった交響曲4番の発表を撤回し、交響曲5番を作曲し始めます。この曲で、政府から賞賛を受け、名誉回復の作品と言われるものとなりました。

しかし、この交響曲5番の中に、ショスタコーヴィッチが音を暗号のようにして、メッセージを残していたとも言われています。この曲の4楽章の冒頭で、カルメンの’ハバネラの有名な’ラレミファ’のフレーズが引用されているですが、この部分の歌詞が’騙されないで’という意味を持ち、さらに、曲のフィナーレには、A(ラ)の音が252回も連続で続くのですが、このA(ラ)は、ロシア語で、リャという’私’という意味を持つものだとも言われており、つまり、この曲を通して、’私は騙されない’というメッセージがあったのではないかと言われています。
個人的にも、この曲を聴いていて、ただ体制に迎合した作品ではなく、彼の芸術家としてのプライドと反骨精神を感じます。

例えば、最後のAの連続音を通して、体制の指導者を裸の王様に仕立てたと、捉えることが出来るようにも思います。華々しく体制を賞賛するような箇所は沢山あるのですが、そのハーモニーの中に、どこかいつも皮肉を感じます。彼自身、芸術家としてのプライドには嘘をつけなかったのかもしれません。

常に体制の監視下にありましたが、スターリンの死後、(ジダーノフ批判も解除)雪解けの時代を迎えます。(※ジダーノフ批判とは、体制が社会主義リアリズムに削ぐわない内容であると判断した芸術作品を批判する制度)

「ヴァイオリン協奏曲第1番」は、スターリンの死後に発表されたものですが、それまでの作品と何かが全然違うと私は感じます。
とても自由で夢があるというか・・・。
特に3楽章では、幻想的な美しがあり、希望や光を感じるような音の連続に、これがショスタコーヴィッチの本当の想いだったのではないかと、身震いしてしまいます。
ジダーノフ批判が実施されていた時に発表されていれば、間違いなく批判されていたと思います。
この曲が作曲されたのは、その期間中でしたが、発表はジダーノフ批判解除の後にされました。
それが全てを語っていると思います。

しかし、これも私の意見ですが、スターリンの死後に書かれた作品は(ヴァイオリンソナタ・ヴァイオリン協奏曲2番等)、彼の独特の緊張感が消えてしまっているようにも感じるのです。もちろん素晴らしい作品であることは間違いないとは思うのですが、私にはどこか物足りなく感じてしまいます。

皮肉にも、抑圧された環境から生み出された、作者の魂の叫びこそが、最高の芸術作品へと導くスピリットなのかもしれません。作品から伝わるそのスピリットに、聴衆は感動し、心震わせるのだと思います。

彼らが命がけで作曲した作品に対して、私もさらに真摯に向き合って大好きなロシア音楽への愛を深めていきたいと思っています!
そして、いつかロシアの地で演奏する夢を叶えたいです・・・














◆寺下真理子 関連作品







◆美少女戦士セーラームーン Classic Concert ALBUM 2018

◆寺下真理子×SUGURU(TSUKEMEN)「ムーンライト伝説」弾いてみた動画

◆寺下真理子×SUGURU(TSUKEMEN)「乙女のポリシー」弾いてみた動画


寺下真理子 プロフィール

5歳よりヴァイオリンを始める。
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校、
同大学、ブリュッセル王立音楽院修士課程卒業。

1993年、第1回五嶋みどりレクチャーコンサートに出演。
1996年、第50回全日本学生音楽コンクール中学生の部、大阪大会第2位受賞。
1997年、第2回宮崎国際音楽祭にて、故アイザック・スターン氏の公開レッスンを受講。
五嶋みどりデビュー20周年記念コンサート(大阪NHKホール)にて五嶋みどりと共演。
2004年には第2回東京音楽コンクール弦楽器部門第2位(ヴァイオリン最高位)受賞し注目を集めた。
2014年、大桑文化奨励賞を受賞。
2015年11月6日には初の台湾公演を行い大成功を収めた。
2015年2月4日「Ave Maria」(KING RECORDS)をリリースし、高音質ハイレゾ音源配信サイトにて全ジャンルの中から週間1位を獲得。Yahooニュースにも掲載された。
韓国の大手ハイレゾ音源配信サイト”groovers”にて、4位にランクイン。その後も長期間に渡りTOP50にランクインした。
2017年2月22日に2枚目のアルバム「ROMANCE」(KING RECORDS)をリリース。
同年4月から全国5都市にて、「ハウス食品グループ ファミリーコンサート」、8月2日、3日には「美少女戦士セーラームーン 25周年記念Classic Concert」にソリストとして出演。

また同年、「平成29年度 和歌山市文化奨励賞」を受賞。

これまでに東京フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、九州交響楽団などと共演。

各地での様々なコンサート・リサイタル・公演の他、テレビ・ラジオなどにも積極的に出演中。

オフィシャルサイト


◆寺下真理子 コンサート情報