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リチャード・カーペンターが語る! 名門RPOとの共演で実現したカーペンターズ“最新作”の聴きどころ

2018/12/28
「イエスタデイ・ワンス・モア」、「遙かなる影」、「スーパースター」、「トップ・オブ・ザ・ワールド」……まさしく珠玉の名曲で日本でも大人気の兄妹デュオ、カーペンターズのニュー・アルバム『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』は、リチャード・カーペンターさんがアビイ・ロード・スタジオで自らタクトを振るい、新たなアレンジで名曲の数々を甦らせた奇跡の一枚です。本作の狙いや制作の様子などについて、来日したリチャード・カーペンターさんにお話を伺いました。お相手は、カーペンターズとは中学生のときに出会ったという音楽ライターのオヤマダ アツシさんです。

取材・文◎オヤマダ アツシ 写真◎山本 昇


『Carpenters With The Royal Philharmonic Orchestra』
/カーペンターズ, ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団




 デビューを果たした1960年代から、ヴォーカルのカレン・カーペンターが惜しまれつつ天国へと旅立った1983年まで、数多くのヒット曲を残してくれた兄妹デュオのカーペンターズ。かつての青春時代を思い出すスイッチのようなナンバーたちは、時代を経て歌い継がれるエヴァーグリーンとなっている(なにしろ彼らの歌は音楽の教科書にも掲載されているのだ)。2019年はデビュー50周年を迎えるのだが、そうした中で突然にリリースされたニュー・アルバム『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』が話題を呼んでいる。カレン亡き後もカーペンターズのサウンドを守り続けてきたリチャード・カーペンターが、名曲たちに新しいアレンジを施し、イギリスの名門オーケストラであるロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して作り上げた素敵な一枚は、カレンのヴォーカルを生かしつつロマンティックなサウンドを蘇らせた“新生カーペンターズ”の最新作である。

ユーモアを交えながら、カーペンターズの音楽や最新作について語ってくれたリチャード・カーペンターさん


■フル編成のオーケストラで新しいアレンジを

――「カーペンターズの新しいアルバム」と伺い、どのようなものになるのかと思っていました。最初はリチャードさんが指揮をされている写真だけを見ましたので、純粋なオーケストラによるカヴァー・アルバムだと思ったのです。実際にアルバムを聴きましたら、カレンさんの歌声が聞こえてきたので少々驚きました。

リチャード・カーペンター(以下R.C.) そう思った方はどうやら多いみたいですね。今回はオリジナルのサウンドを生かしつつ、アレンジなどに新しいアイデアを加え、リフレッシュさせたニュー・アルバムというわけです。特にフル編成のオーケストラを使えたことは素晴らしい体験でした。オリジナルのレコーディングでもオーケストラは使っていましたが、それはずいぶん小さな編成でしたからね。長い間、オリジナルのアレンジや雰囲気を逸脱しない範囲で、さらに理想的なサウンドへ近づけるための小さなアイデアを貯め込んでいて、チャンスがあればそれを実現したかったのです。もちろん、オリジナルが悪いということではありませんよ。当時としては完成されたものでしたからね。

――カーペンターズのサウンドを作っているのは、リチャードさんのキーボードをはじめ素晴らしいスタジオ・ミュージシャンたちの演奏ですが、ピアノやギターはもちろん、オーボエやイングリッシュ・ホルンなどの管楽器といったアコースティック楽器も印象深いものでした。ああいった音のチョイスは、リチャードさんのアイデアだったのでしょうか。

R.C. 多くの場合、そうだったと思います。うちは父がレコード・コレクターでしたから、日常の中でさまざまな音楽に接することができました。ポピュラー音楽やディキシーランド・ジャズ、クラシックもです。もちろん自分でもラジオを聴いて、さらにいろいろな音楽に触れてきました。それはとても素晴らしい体験でしたし、ミュージシャンになってから大いに役だったことは間違いありません。「スーパースター」でオーボエを使ったり、「ふたりの誓い」でバロック風のピアノを鳴らしたりしたのも、そういった体験がものをいっていますね。今回のアルバムでもそうした楽器や美しい音のハープなどからインスピレーションをもらい、新しい世界を創造できました。

――今回のアルバムでも、「愛にさよならを」ではバッハの音楽を思わせるようなトランペットが加えられていたり、日本のファン向けにボーナストラックとして収録された「プリーズ・ミスター・ポストマン」でも、バロック音楽風のストリングスが追加されるなど、オリジナルにはないアイデアがあちこちにあって、これがそれぞれのナンバーの最新形態なのだろうなと思いました。

R.C. 僕がカーペンターズのために書いたりアレンジしてきた曲は、どれもメロディとアレンジが同時に浮かんできたものなのです。たとえば「イエスタデイ・ワンス・モア」の中にある“Every Sha-la-la-la~”の部分には、そのメロディを受けてストリングスが演奏する短いパッセージがあるけれど、すべてがひとつのものとして生まれたのだから切り離すことはできません。そうしたケースはたくさんの曲にあるのです。ただ、僕もこれまでいろいろな仕事をしてアレンジャーとしてもオーケストレイター(オーケストラのスコアを書く仕事)としても成熟したと思いますし、「今だったらこうするかな?」というアイデアも生まれたので、新しいカーペンターズを生み出したいという気持ちは高まっていました。

――とはいえ、カレンさんのヴォーカルを差し替えたり、新しく録音することは叶いませんね。ただし、聴いてみるとオーケストラのアレンジが新しくなったせいか、ヴォーカルも艶やかになっているような印象を受けました。

R.C. カレンのヴォーカルを(イコライジングなども含めて)どうかしようと思ったことは一切ありませんでした。もしカレンが生きていて、この仕事の現場にいたとしてもね。ただひとつ言えることは、オリジナルのアナログ・レコーディングでは避けられなかったアンビアント・ノイズ、つまり周囲のちょっとした物音を拾ってしまったノイズなどを除去できたせいで、よりヴォーカルの純度は高まったということでしょうか。当時はどんなに素晴らしいスタジオや優秀なエンジニアでも、技術的にどうしようもなかったことはありましたからね。

――今回のアルバムですが、アレンジの素晴らしさもさることながら、全体の構成もひとつの物語のようになっていて楽しめましたし、聴き慣れていた曲のイメージも変わりました。

R.C. 「オーヴァーチュア(序曲)」から始まり、そのまま「イエスタデイ・ワンス・モア」へ流れていったり、曲のイントロが前の曲のメロディになっていて二つの曲をつなげる役割を果たしたり、ということですね。そのブリッジの部分でうまく曲のキーを変えることもできましたし、とにかくリスナーには音楽の流れに乗っていただき、次の曲はどんな世界だろうとわくわくし続けてもらいたかったのです。




■オリジナルの素晴らしさも甦らせたハイレゾ

――「カーペンターズ・サウンドとは何か」と問われたら、リチャードさんご自身はどのような回答をされますか。

R.C. これは、難しいですね。カレンのヴォーカルがとても大きな存在であることは、あらためていうまでもありませんけれど、加えて僕が思っているのは、コーラスにおけるハーモニーの重ね方、レイヤー(階層)の作り方に大きな特徴があるということ。たとえば「愛のプレリュード」を聴いていただければ、わかっていただけるでしょう。「これこそがカーペンターズだ!」という具合にね。バンドやオーケストラのアレンジについていえば、「スーパースター」のイントロで聴けるオーボエや「愛のプレリュード」でのクラリネットなど、曲の雰囲気やカラーに合わせて特徴のある楽器や音色を選んでいることも挙げましょう。もうひとつ加えるとするなら、歌詞のひと言ひと言がクリアに聞こえるような音作りをしているということです。たくさんのミュージシャンがカーペンターズの曲をカヴァーしてくれていますが、いま挙げたようなことはしっかりと守ってくれたり残してくれていますから、みなさん「カーペンターズ・サウンド」とはそういうことだと理解してくれているのでしょう。

――このアルバムはe-onkyo musicにて、ハイレゾ配信されています。ご存知かもしれませんが、これまで以上に大きな器で音楽を捉え、歌や演奏の細かなニュアンスも伝えられるようになりました。音楽家として、こうした音と技術の進化には関心がありますか。

R.C. もちろん! 僕自身、とても気を配って作り上げた音楽をそのままリスナーに届けたいですから。カーペンターズはアナログ録音の時代からレコーディングを始めた世代ですが、当時はまだサーフェス・ノイズ(レコード盤とレコード針の摩擦ノイズ)やテープのヒス・ノイズを取り去ることなんて不可能だったけれど、そのうちドルビー・システムが導入され、デジタル・レコーディングになり……という進化を生きてきたわけです。そうした技術の素晴らしさと音楽への恩恵は僕も身をもって体験してきました。

――e-onkyo musicのユーザーへ、リチャードさんからメッセージをいただけますでしょうか。

R.C. 僕とカレンの作ってきた音楽を愛してくれ、応援してくれて心から感謝いたします。若い世代には初めてカーペンターズをじっくり聴く方もいらっしゃるでしょうけれど、ハイレゾによって、カレンのヴォーカルやミュージシャンたちの演奏といった、30年以上も前のオリジナル・レコーディングが素晴らしいサウンドだったと気がついてくれる方も多いでしょう。今回もロイヤル・フィルのメンバーをはじめ、カーペンターズのサウンドを現代風に仕上げてくれた素晴らしい音楽家たちやスタッフに恵まれました。それが高いレヴェルで実現できたのにはロイヤル・フィルという素晴らしいオーケストラや、それぞれの楽器の名手たちがいてこそです。ハープやクラリネット、ファゴットなど、いろいろな曲にフィーチャーされた素敵な演奏をお聴きいただき、この素晴らしい音楽を最高級の環境で楽しんでください。

――最後にもう一問だけ。今回のラインナップに日本でも大ヒットした「シング」が入っていないことで、残念に感じるリスナーも多いと思いますが、これはなにか意図があるのでしょうか。

R.C. オー(笑)。決定事項ではないので大きな声ではいえませんが「第2弾の可能性も考慮して」とだけお答えしておきましょう。一度にみんな収録してしまってはもったいないじゃないですか。いや、どうなるかはわからないけれど、皆さんが今回のアルバムを楽しんでくれれば第2弾も実現すると信じていますから!                  

 今回のアルバムに収録されたナンバーは、1960年代から80年代にかけて、カーペンターズのキャリアを俯瞰するように選ばれた19曲。リフレッシュされたサウンドをハイレゾで聴くと、やはり心に響くのは素晴らしいメロディの数々であり、そのメロディに多彩な色を付ける楽器の音にもあらためて感銘を受ける。「青春の輝き」におけるハープ、「ふたりの誓い」におけるイングリッシュ・ホルンなど聴きどころは多数あり、ハードロックからパンク、ニューウェーヴなどへと至る時代にあって、彼らが常に“やさしい音楽”(今風に表現するなら“オーガニックな音楽”)を送り出していたことに、今さらながら気がつく。もちろんリチャードさんが指摘したように、2人の声による絶妙なコーラスワークと独特のサウンドも、ハイレゾによってその美しさや艶やかさが際立つはずだ。
 さらに声を大にして言いたいのは、アルバム全体を聴いて欲しい!ということだ。まるでカーペンターズのナンバーをふんだんに使ったミュージカルが始まるように「オーヴァーチュア」が流れ、「イエスタデイ・ワンス・モア」「ハーティング・イーチ・アザー」……と進んでいく粋なアイデアは、決してトラック(曲)単位で聴いてもわからない。このアルバムは「単なる曲の集合体」ではなく「物語」なのだから。「懐かしい」と心打たれる人にも、「こんな素晴らしい音楽があったなんて」と驚く方にも、心温まるカーペンターズ・サウンドを!

現在の録音技術は本当に素晴らしい音を耳に心地よく捉えてくれます。e-onkyo musicのリスナーのみなさんには、『カーペンターズ・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団』の高音質をぜひ楽しんでいただきたいですね。


◆カーペンターズ 関連作品


『シングルズ 1969-1981』
/カーペンターズ



◆ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で蘇る往年の名作