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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第63回

2018/12/01
『la RiSCOPERTA』 KAN
~補正に頼らぬ精密なパフォーマンスが素晴らしい、歌とピアノと弦楽四重奏!~

■音程やリズムを安易に補正しない音楽を切望

最近の音楽、特にポップスは、コンピュータでガッチリと製作されているものがほとんどです。音程からリズムまでを、寸分の狂いなく正確に修正してしまいます。意外にも、歌の上手い下手に関わらず、とりあえずオートで補正しておくという風潮です。

私はこの正確過ぎる音楽が、ちょっぴり苦手。微妙なリズムのズレがグルーヴに、微妙な音程のズレが感情表現に繋がるはずが、正確性にどっぷり慣れた現代人の耳には、音程やリズムが少しでも外れると全てがエラーとしてキャッチされてしまうのは残念でなりません。機械で整えられた音ではなく、本来の鍛錬の成果たる歌や演奏を切望するのは、難しい時代なのでしょうか。

例えばハーモニー。歌のサビをハモるとき、主旋律を聞かずにハモりパートを録音し、各々に補正をかけて音程とリズムを修正する。これで果たして本当のハーモニーが成立するかというと疑問です。

やはりハモりは、お互いの音に反応して共鳴するポイントを探し出し、声と声とを響かせるところに醍醐味があると思います。正確な二音が旋律に従い移動するだけでは、歌としての感動が薄いと私は感じてしまうのです。皆さんはいかがでしょうか?


■歌とピアノと弦楽四重奏というスタイルのセルフカバー

●『la RiSCOPERTA』
KAN



前作『la RINASCENTE』に続き、KANさん自身によるストリングス・アレンジで、弦楽四重奏とピアノと歌というシンプルな構成で聴かせるセルフカバーアルバムが、本作『la RiSCOPERTA』。

本作は楽曲の素晴らしさ、丁寧な弦アレンジはもちろんのこと、私が最大の魅力だと感じているのは、ポップスでありながら補正主体の音楽製作とは決別しているところです。歌とピアノを注意深く聴いてみても、補正処理を全く感じません。そして弦楽四重奏というシンプルな編成が活き、楽曲が持つメロディの美しさが際立ってリスナーの心を温めます。

前作『la RINASCENTE』は超有名曲の「愛は勝つ」が収録されており、KANさんアルバムの入門としてはおススメなのですが、音の柔らかさや浸透力の高さから、ハイレゾという大きな器で聴くサウンドという意味では新作『la RiSCOPERTA』がオススメです。実際、私がリピート再生しているのは本作が圧倒的であり、微妙な音色感が音楽と人との密着度に影響するものだと驚かされます。


■弦アレンジで新たな魅力を放つ名曲たち

KANさんご本人によるストリングスのアレンジが秀逸で、綿密に練られた一音一音は、計算し尽くされていながら原曲のイメージに忠実です。こんなにメロディーを華やかに彩るアレンジは、編曲を他の人に外注したのでは実現が困難な、まさにご本人仕様の賜物です。

映像が目に浮かぶような名曲「カレーライス」。この曲を初めて私が耳にしたのは2006年で、確かお店のBGMとして流れていたラジオ放送だったように記憶します。そのころKANさんは長期休業されており、「カレーライス」がラジオから流れてきたときには、一発で分かるKAN節の名曲誕生、そして活動再開に感激したものです。本作では、ストリングス・アレンジで「カレーライス」の情景がより活き活きと映像のように流れていきます。

私が前作・今作を含め、KANさん弦楽四重奏シリーズの最高の仕上りだと思っている「君はうるさい」をぜひチェックしてみてください。原曲は1988年の作品ですので、当時は時代的に流行っていた可愛らしいシンセ・アレンジでした。本作では、そのフレーズそのままにストリングスで再現しており、これがもう最高です。歌詞のキュンとくる面白さに埋もれていた、メロディーの秀逸さが光を増しました。


■演奏形態から必然となった補正との決別

歌とピアノとストリングスというスタイルから、全ての演奏が音程やリズムのオート修正を意図的に行っていない印象があります。もちろん部分的な修正があった可能性はあるものの、正確過ぎる現代ポップスとは一線を画す仕上がりは、逆に新鮮に感じるほど。音楽が水の流れのように、自然に流れていきます。昔ながらの音楽制作方式が生んだこのナチュラルさは、卓越した歌唱と演奏力がなければならないのに、それを全く感じさせないのが素晴らしい。

ハイレゾ的な聴きどころは、センターにガツンと定位する歌声と、前後左右に広がる音像のピアノの対比。ストリングスはアンビエント系というよりは、生々しい系で明確に定位している音の感触です。音楽と積極的に対峙して聴くも良し、BGMのように聞き流して歌詞に時々ハッとするも良し。この冬、心がちょっぴり温まる、なんとも素敵なハイレゾ作品に出会えました。




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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず) 3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。