PC SP

ゲストさん

NEWS

【11/6更新】 印南敦史のルール無用のクラシック

2018/11/06
タイトル通り、ロック好きでもJ-POPファンでも楽しめるクラシック音楽を紹介する、ジャンル不問のクラシック・レヴュー。月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史のルール無用のクラシック」!
アルディッティ弦楽四重奏団『Hans Abrahamsen: String Quartets Nos. 1-4』
現代音楽に特化したヴァイオリニストの率いる弦楽四重奏団が、ハンス・アブラハムセン作品を披露


前回 、ヤニス・クセナキス関連のことを書いてみた結果、アルディッティ弦楽四重奏団を思い出してしまいました。なぜならこの楽団は、クセナキス作品も積極的に取り上げてきたからです。

第1ヴァイオリンのアーヴィン・アルディッティ(以下、アルディッティと表記)により、1974年に結成された弦楽四重奏団。来年2019年には45周年になるわけですから、かなり息の長いグループです。

とはいってもアルディッティ以外のメンバーは幾度となく入れ替わっていて、オリジナル・メンバーは彼だけ。つまり、表現は適切でないかもしれませんが、彼の表現欲求を満たすことが重視されているのかもしれません。

アルディッティは、1953年ロンドン生まれ。16歳のときから王立音楽院でヴァイオリンを学び、1976年にはロンドン交響楽団に入団。その2年後、25歳にして副コンサートマスターになったそうです。

学びはじめたのが16歳のときだと考えると、早くから英才教育を受けてきた人たちが多いクラシックの世界において、スタートは遅いほうだったのかもしれません。が、その後の成長の速さは、彼の才能の豊かさを証明してもいます。

ところでアルディッティ弦楽四重奏団の結成が1974年(当時の彼はまだ学生)だということは、ロンドン交響楽団と活動期間が重複します。本人もそれが気になっていたのか、1980年にロンドン響を退団。以後はソリストとしての活動と並行し、アルディッティ弦楽四重奏団の第一ヴァイオリンとして実績を積み上げてきました。

さて、プロフィールの解説がちょっと長くなってしまいましたが、特筆すべきは、むしろその音楽性です。というのも、この四重奏団はレパートリーを現代音楽に特化しているのです。

と聞くと、似たような傾向を持つグループとしてクロノス・カルテット を思い出す方もいらっしゃるかと思います。しかし、1年ほど前に取り上げたことのある『Folk Songs』がそうであるように、クロノス・カルテットはミニマルからアフリカ音楽まで、関心を示す対象が非常に広範です。

いわば柔軟な発想力が魅力となっているわけですが、アルディッティ弦楽四重奏団はそのあたりがちょっと違います。ジョン・ケージ、エリオット・カーター、ジェルジ・リゲティ、カールハインツ・シュトックハウゼン、ヤニス・クセナキスら数多くの現代音楽家の新作を初演しているということからも推測できるように、視野の範疇にあるのは前衛音楽や実験音楽のみなのです。

そういう意味では、自分の信じた道のみを探求するアルディッティの職人気質が反映されたグループであると言えそう。高倉健が演じる職人みたいなイメージです。

それはともかく、アルディッティ弦楽四重奏団名義でのアルバムが170作以上発表されていて、さらにアルディッティ個人名義でも無伴奏ヴァイオリン作品を出しているというのですから、とんでもない熱量です。

しかし、そう考えると、目まぐるしくメンバー・チェンジが繰り返されてきたこともなんとなく納得できる気がするのです。

ちなみに2017年の来日時には、西村朗作品世界初演、細川俊夫作品日本初演、そしてダンサーの白井剛との共演なども果たしています。行きたかったなー。

今回ご紹介する『Hans Abrahamsen: String Quartets Nos. 1-4』で取り上げているのは、ハンス・アブラハムセンの、弦楽四重奏曲第1番~第4番。彼は以前にご紹介したソプラノ歌手、バーバラ・ハニガン との共演作『Let Me Tell You』でグロマイヤー作曲賞を獲得した作曲家です。

ここでは、アブラハムセンが60代になった2012年に作曲した第4番にはじまり、時系列を遡って演奏が披露されていきます。なお最後にお目見えする第1番は、彼が20代前半で作曲した楽曲。この流れで聴いていくと、作風の変化もより明確にわかる気がします。

アブラハムセンは1952年生まれ、アルディッティはその翌年の生まれですから、同年代の作曲家と演奏者のコラボレーションと解釈することもできるかもしれません。

もしかしたら、そういったことも影響しているのでしょうか? このアルバムで聴けるアブラハムセン作品は、表現に無理がないといいますか、とても自然に聴こえます。まるで、何百回も演奏してきた作品を再演しているかのように、アルディッティ弦楽四重奏団の演奏は“こなれて”いるのです。

そのため、聴くたびに新たな鮮度を感じることができます。事実、リリースから1年を経ても聴き飽きることがありません。現代音楽には難解なイメージがあるかもしれませんが、楽章によっては驚くほどキャッチーだったりもするので、気軽に受け入れられるはず。ぜひチェックしてみてください。


◆今週の「ルール無用のクラシック」





◆バックナンバー
【10/30更新】ハンス=クリスチャン・ショス・ソレンセン『Xenakis / Cage / Hedstrom Klos Sorensen: Open Percussion』
ノルウェーの代表的打楽器奏者が、クセナキス、ケージらの楽曲を取り上げた秀作

【10/23更新】マット・ハイモヴィッツ、エフゲニー・スドビンら/ティペット・ライズ・オーパス2017~白昼夢
自然、アート、音楽が融合した、「ティペット・ライズ・アートセンター」でのライヴ・レコーディング

【10/16更新】ティボー・ガルシア/Bach Inspirations
バッハへのオマージュをさまざまな手法によって表現した、スペイン系フランス人ギタリストの新作

【10/10更新】エマニュエル・パユ/SOLO
フルートのポテンシャルを最大限に活かし、バロックから現代音楽までを同一線上でリンクさせた傑作

【10/2更新】藤倉大/ダイヤモンド・ダスト
会ったことのない人とコラボレーション。インターネットの可能性をフルに活用した“現代的な現代音楽”

【9/26更新】飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ/飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート 2018
「指揮者を置かない」オーケストラの意欲と実力が見事に発揮された、最新ライヴ音源

【9/19更新】オーガスティン・ハーデリッヒ/パガニーニ:24のカプリース
超絶技巧によって、パガニーニの魅力を見事に引き出す若手ヴァイオリニストの意欲作

【9/11更新】寺嶋陸也/寺嶋陸也plays林光
ミニマルな楽曲と表現のなかに、圧倒的なグルーヴを感じることのできるピアノ独奏作品

【9/4更新】ミッシャ・マイスキー/アダージェット
多重録音によるマーラー「アダージェット」を含む、実子に捧げられた4作目の小品集

【8/21更新】スティーヴ・ラウズ:Morphic Resonance/インディアナ・ユニバーシティ・ニュー・ミュージック・アンサンブル
情報不足ながら、ぜひとも聴いてみていただきたい優秀な現代音楽作品

【8/14更新】ギャヴィン・ブライヤーズ/The Fifth Century
『タイタニック号の沈没』で知られる作曲家/コントラバス奏者が、合唱団の力を最大限に引き出した秀作

【8/7更新】4つの街~チェロ・ソナタ集/ファジル・サイ、ニコラ・アルトシュテット
ピアノとチェロの2大鬼才が、真正面からガッチリと向き合ったスリリングな作品

【7/31更新】メイソン・ベイツ:オペラ「スティーブ・ジョブズの革命(進化)」/サンタフェ・オペラ/サンタフェ・オペラ・オーケストラ/マイケル・クリスティ
気鋭の作曲家による、スティーブ・ジョブズの生涯を描いた画期的なオペラ作品

【7/24更新】『大澤壽人の芸術』山田和樹(指揮)、日本フィルハーモニー交響楽団
“知られざる名作曲家”の功績を示してみせた、聴いておくべき重要な作品

【7/17更新】メレディス・モンク『On Behalf Of Nature』
“声”による表現にこだわり続けてきた異色のパフォーマー/ヴォーカリスト/作曲家の世界観を凝縮

【7/10更新】高橋悠治『余韻と手移り』
J.S.バッハから自作曲まで、さまざまな楽曲をひとつの“線”として表現してみせたライヴ・アルバム

【7/3更新】リーラ・ジョセフォウィッツ『ジョン・アダムズ:ヴァイオリン協奏曲』
天才ヴァイオリニストが、ジョン・アダムスの世界観を理想的な形で再現した優秀作

【6/26更新】通崎睦美『スパイと踊子』
個性豊かな表現者が、“世界一の木琴奏者”から譲り受けた幻の名器を使用して生み出した個性的な作品

【6/19更新】シェク・カネー=メイソン『Inspiration』
ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番で話題を独占した、若き黒人チェロ奏者

【6/12更新】ダニエル・ロザコヴィッチ『バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番・第2番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2集』
「いまどきの若い子」のすごさを実感せざるを得ない、衝撃的なデビュー・アルバム

【6/7更新】タンブッコ『大地のにおい』 あらゆる音楽を吸収する打楽器グループが、二十絃箏や尺八と共演するなど、さらなる意欲を見せる充実作
【5/29更新】クリスティーナ・プルハー『Handel goes wild』
古楽のラルペッジャータアンサンブルとともに、ヘンデル作品を大胆にリコンストラクト

【5/22更新】ジェフ・ミルズ『Planets』 デトロイト・テクノの重鎮が手がけた、圧倒的な完成度を誇るなオーケストラ作品
【5/15更新】ゾフィー・パチーニ『In Between - Schumann & Mendelssohn』 若手の実力派女性ピアニストが、リスト、シューマン、メンデルスゾーンを並列させ、心地よい空気感を表現
【5/8更新】ピエール=ロラン・エマール『オリヴィエ・メシアン(1908-92):鳥のカタログ』
現代音楽の巨匠メシアンが不協和音で表現した「鳥」を、巨匠エマールが見事に再現した傑作

【5/1更新】『マーラー 交響曲第4番 ピアノ四重奏曲(管弦楽版)』
/グスターボ・ヒメノ, ルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
アバドも認めた注目の指揮者による、現代的な解釈が新鮮なマーラー4番

【4/24更新】David Aaron Carpenter 『Motherland』
ヴィオラという楽器の可能性を最大限に引き出す、注目の若手奏者が見た「祖国」

【4/17更新】朝比奈隆, 大阪フィルハーモニー交響楽団『ブルックナー:交響曲 第8番 (ハース版)』
「ブルックナーの巨匠」にしか表現できない、洗練されているのに人間味にあふれた“グルーヴ感”

【4/10更新】チョン・キョンファ『Beau Soir - Violin Works by Faure, Franck & Debussy』
韓国を代表するヴァイオリニストが、70歳の節目に発表したフランス・ソナタ集

【4/3更新】 新垣隆『交響曲《連祷(れんとう)》 - Litany-』
“あの騒動”が過去のものとなったいまだからこそ、再確認してみたいその才能

【2/27更新】 モニク・アース『Debussy: Preludes I & II & Etudes』
ドビュッシー楽曲を独自のスキルと感性で弾きこなす、フランスの名ピアニスト

【2/20更新】 須関裕子『ラ・カンパネッラ』
注目の若手ピアニストによる、真摯な姿勢が明確に伝わってくる秀作

【2/13更新】 スティーヴ・ライヒ『パルス/カルテット』
ミニマル・ミュージック界の重鎮、ライヒの才能を実感できる心地よい作品

【2/6更新】 フルートに対する“常識”を打ち破る、画期的でスリリングなアルバム
【1/30更新】 ラフマニノフとフィリップ・グラスを無理なく共存させてみせた、聴きやすく高密度な作品
【1/23更新】 声の力と存在感で、リスナーをぐいぐい引き込む才女によるグラミー・ノミネート作品
【1/18更新】 イギリスのリコーダー・カルテットによる結成20周年作のモチーフは、現代作曲家作品
【1/11更新】 ワルツやポルカの楽しさを存分に味わえる、年に一度のお楽しみ
【12/26更新】 現代音楽界のトップ・グループが、トラッド・ミュージックを再現した快作
【12/22更新】 年末だから「第九」を聴こう
【12/15更新】 マリンバという楽器に注目したことはあるでしょうか?
【12/8更新】 はじめまして。


印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」