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サックスプレーヤー纐纈歩美 最新アルバム『オ・パト』スペシャルインタヴュー!!

2018/10/17
サックスプレーヤー纐纈歩美がボサノヴァに挑んだ最新アルバム『オ・パト』。
小野リサとのコラボレートや、ボサノヴァならではの難しさや魅力について語ってもらいました!


『O PATO』/纐纈歩美


―アルバムの完成おめでとうございます。今作は本当にボサノヴァに振り切れた仕上がりですが、振り返ってみた感想はいかがでしょう。

アルバムとしては初めてボサノヴァに挑戦して、今までライヴで演奏したりというのはありましたが、今回みたいに全編ボサノヴァをしっかりとやる事で自分自身の音楽的な幅を広げる事ができたなと思っています。

―そもそも今回ボサノヴァのアルバムを作る事に至る経緯はどのようなものだったんですか?

そうですね、今までボサノヴァ自体が自分にとって遠い存在ではなかったというのもあってライヴのレパートリーに数曲取り入れたりしていたんです。私はポール・デスモンドがすごく好きで、彼も『ボッサ・アンティグア』というアルバムを出していて結構ボサノヴァを演奏しているイメージもあって。そういうサウンドにしたいなというか、アルトサックスでボサノヴァをやるっていうイメージは割とすぐにできたという部分は大きかったですね。

―小野リサさんとのコラボレートも今回の特色だと思いますが、何かきっかけがあったんですか?

スウィング・ジャズ以外のことに挑戦しようとしたときに、自分の中にある要素だけだと結局今までの作品の延長にしかならないなと思ったんです。今回はもっと大きく幅を広げたいと思って、その道をずっと極めて来て世界的な活躍もされている小野リサさんというのはすぐに思い浮かびました。ボサノヴァをやりたいと思ったときには、すでに小野リサさんにお願いしたいという考えがありましたね。

―小野リサさんとの共演は初ですよね。

初ですね。私自身もこのようにプロデュースを誰かにお願いするのは初めてでしたし、小野リサさんご自身も他人のプロデュースは初めてだそうで、その意味でもすごく挑戦的なプロジェクトだったと思います。いい科学反応が起きるんじゃないかという期待がありました(笑)

―作品を通じて全体的に小野リサさんのフレーヴァーが生きているし、そこに纐纈さんのサックスが常にあるということで、素晴らしいシナジーが起きていると感じました。

やはり小野さん独特の包み込むような雰囲気があって、自然体でいられる空気を作ってくれていましたね。だから私自身が持っているフレーズやアプローチをとてもうまく調和させてもらえました。私が今まで培ってきた部分の良いところを自然に引き出していただきました。

―見事なプロデュースワークですね…

本当にそうでしたね。かと言って「なんでもいいんだよ」という感じでは決してなくて、今回レコーディングのディレクションもお願いしていたのですが「ここはこうした方がいいよ」といったアドヴァイスはしっかり頂きました。

―小野さんと纐纈さんはそれぞれ違うフィールドで活躍されてきましたが、レコーディングのテイクの判断等、ディレクションで戸惑うことはありましたか?

テイクの判断は、ほぼ7割、8割くらい意見が一致してましたね。ただやっぱり見方の違いも少しだけあって、私はやっぱりジャズ的な「セッション感、即興感」みたいなものをどうしても好むんですけど、リサさんはもう少し整ったテイクを録ろうというとする傾向はありました。あまり荒っぽくならないようにしたいというか。

―スポンティニアスさよりも、もう少し楽曲主体のきっちりとした感じですか?

そうですね。音楽的にというかテイクとしてのまとまりを重視していました。その時は「少し整いすぎているかな」とも思ったんですけど、何度もプレイバックしていくとリサさんの選ぶテイクが正しかったんだなと気づかされることが多かったです。音楽の聴こえ方を長い目で見てらっしゃるなと思います。

―小野さんご自身がヴォーカリストだという面も影響しているのかもしれないですね。

そうかもしれないですね。なので、インプロヴィゼーションをどうこう、というよりもしっかりと楽曲を「歌として」表現していくことに集中しました。

―レコーディングのスタイルはいつもと同じですか?

いつもどおり全員一緒にスタジオに入って演奏します。でも今回のレコーディングのミュージシャンは全員リサさんが選んだ方ばかりだったので新鮮でしたね。ギターの馬場孝喜さんは以前もジャズのセッションでご一緒してますが、その他の方はかなり昔に数回ご一緒した感じ。ピアノのフェビアン・レザ・パネさんになんて完全に初対面でした。でもリサさんが選んだだけあって、このメンバーで出す音はボサノヴァそのものでした。特にドラムの藤井摂さんの場面を操る色彩感というか、摂さんじゃなかったらこの空気感は出なかったと思います。何度聴き返しても凄いですね。

―単調になる怖さもあるボサノヴァを、あの少ない音数でコントロールしている…

そうなんですよ。本当に絶妙に場面を切り替えてくれます。


リサさんは感性100%

―小野リサさんとの作業で印象に残っている事はありますか?

本当に色々な事が印象的でしたが、事前にミュージシャンも含めて展開や尺感などある程度打ち合わせとリハーサルをして後日録音に挑むんですけど、リサさんと最初にお会いして選曲など色々相談していたんです。で一度2人で音合わせをして、決めた事を後日もう一度合わせようとすると、前回決めた事が綺麗さっぱり無かった事になってる(笑)

―どういう事ですか(笑)

本当にその瞬間瞬間の閃めきなんだなーと。だから慌てて「リサさん前回こうやって弾いてますよ!」って録音を聴かせると「あー、そうだったね。そうだそうだ!」みたいな(笑)それでピアノのパネさんに「ねえ、私が弾いているこれってどういうコード?」って尋ねるという(笑)ご自身で弾いているけどそれが何というコードなのかというよりも、感覚で弾いているんですね。

―意外なエピソードですね。

本当に感性100%というか、譜面に落とし込んでどうこうという感じでは無いんですよ。でもパッと出てくるイントロが本当に素晴らしかったり…。もう全部記録しておきたいくらいでした。

―準備期間はどれくらいだったんですか?

最初にリサさんとお会いしたのが4月くらいだから、トータルで2、3ヶ月ですかね。リサさんと一度会って打ち合わせをして、次に会うのはまた1ヶ月後とかで。バンドとのリハーサルが録音の1週間前だったので、実質そんなに長期間ではなかったです。

―今回楽曲のセレクトはどのように?

私はボサノヴァをそれほど深くは知らないので、どうしても選曲がありきたりになってしまうんです。なのでリサさんからまず30曲ほどおすすめを教えてもらって、それを実際に1人でサックスで吹いてみて気に入ったもの、このメロディを吹きたいなと思った曲を選びました。

―どの曲も纐纈さんご自身の中にあまり無かった楽曲だと思いますが、特にこれは苦労したという曲はありますか?

「Capim(カピン)」と「Rosa(ホーザ)」です。これは厳しかったです…。練習しまくりましたね。原曲はやっぱりメロディが「歌」ありきで歌詞があって、それをサックスでなぞってみても全然違うんですよ。だから歌のフェイクの部分なんかを全て採譜して研究し尽くしました。それでもう一度吹いてみて、口でも歌ってみてというのを何度も繰り返して。

―研究して極力歌に寄せていった?

. そうですね。メロディを吹く楽器が譜面を追いながら吹いていたら絶対にダメだと思って、とにかくメロディを体に染み込ませようとしました。もうソロなんかよりもメロディを自分のものにしようと必死でした。それでも「Capim」なんてぜんぜん駄目で、一度リサさんに「無理かもしれないです」って相談したんです。そうしたら「歌うように吹けばいいんだよー」って(笑)


サックスで歌う難しさ

―サックスで歌を表現する難しさはどこにありましたか?

歌ってとても複雑で、そのメロディをただサックス吹いても単調に聴こえるというか、スーパーのBGMみたいになっちゃう(笑)それがどうしても嫌だったんです。私はジャズでもボサノヴァでも、歌に敵うものは無いと思っているので、歌が主体になっているものをインストにするのはとても難しかったです。特に、「Capim」はインストでやっている前例が見当たらなかったというのもあって余計に難しさを感じました。

―ダイナミクスであったりとか、そういうテクニック面の難しさですか?

ダイナミクスもそうだし伸び縮みして揺れるような部分や、音を“呑む”ような部分とか。フェイクの研究も含めて歌のニュアンスをとにかく自分のものにしたかったです。こんなに歌を研究したのは初めてでした。

―ボサノヴァをやるにあたって、レコーディング時のサウンドメイクやアプローチは何か変えました?以前の作品に比べて“マウスピースの音がしているな”という印象がありました。

特に何も変えてないです。ただ、1年前のレコーディングの後からサックスのリードを固めのものに変えて、結構ハードなセッティングにしたんですよ。それがここ数ヶ月でようやく安定してきた頃に今回のレコーディングだったので、以前より丸めの音になっているかもしれないですね。

―リードを固めにすると音は丸くなるんですね。

吹く時の抵抗感が増えますからね。パーンと出ていたものがもう少しグッと抵抗が増すような、抑制されたような音になります。ボサノヴァ用にそうしたわけじゃなく、自分の目指す音がそういう傾向になっているのかなと。

―今作は全体的にメロウで丸いサウンドになっているなと感じます。

ボサノヴァという音楽があまり熱くならないというか、ジョアン・ジルベルトが歌っているようなものを聴いていても結構淡々としているじゃないですか。あのイメージもあったので、必然的にそうなったのかもしれないですね。でも確かに、スタジオもエンジニアさんも前作のアクアレールの時と同じなのですが、サウンドチェックの時に「前回より音が丸くなりましたね」と言われました。

―そのほかにボサノヴァならではの難しさはありました?

普段あまりやらないキーだったのでそれも難しかったですね。ボサノヴァはキーがDの場合が多いんですけど、サックスだとDでソロを吹くのがなかなか…。やっぱりギターが綺麗に響くキーですよね。ただサックスだと難しい(笑)

―キーを変えることは考えませんでしたか?

これで例えばFとかにしちゃうと、あの開放感というかカラッとした感じは絶対出ないですからね。それは考えなかったです。

―アルバムの制作を通じて幅が広がりました?

そうですね、こういう機会が無いとなかなかこんなにボサノヴァをやることも無いでしょうし、「Capim」の作曲者のジャヴァンだったり「Rosa」のピシンギーニャとか、こんなに素晴らしいアーティストがいるんだと、今回初めて知る事ができました。今ではジャヴァンの大ファンです。今回の企画がなかったらこの先も触れる事のない音楽だったかもしれません。

―この先試してみたいスタイルやジャンルはありますか?

普段からデュオの形式でよくライヴをやっているのですが、基本的に少人数の編成が好きなんですよね。なので、色々なアーティストさんを曲ごとにゲストでお招きしてアルバムを1枚作れたらいいなって密かに思っています。

―少人数が好きなのは、やはりソロイストとしての自由度の高さですか?

それもあるのですが、ダイレクトに相手の色々なものを感じることが出来るのが好きですね。人数が多ければ多いほど、フロントとして纏めなきゃっていうプレッシャーも出てくるので。自分のバンドでやるときとかはそれがいい風に作用することもあるんですけど、そういうのとは全く別物なのが楽しいですね。大編成で盛大に音楽を作っていくのも魅力的ですが、小編成でじっくりと繊細な世界を作っていく方が自分にはしっくり来る気がしています。

―では最後に、e-onkyo musicのリスナーにメッセージをお願いします。

実は今回初めてギターを入れた編成でアルバムを作ったんですけど、それによって自分で聴いていてもすごく広がりや深みが出ているなと思っています。 これをハイレゾで聴くととても味わいがあるので、そんなところも楽しんでみてください!

―本日はありがとうございました!