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【10/5更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/10/05
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
エアロスミス『Rocks』
倉庫でレコーディングされた名盤が思い出させてくれるのは、クリスチャンの人たちとの思い出


西武新宿線沿線の井荻という駅の近くに、「コーヒーイオギ」というベタな名前のコーヒーショップがあったのは、1970年代中盤のこと。

あのころはコーヒーショップや喫茶店の全盛期であり、個人店がたくさんありました。お店の人が好きなレコードをかけている店も多く、コーヒーイオギもそのひとつでした。

父親の財布から小銭を盗んでその店に通うようになったのは、中学2年のころ。いろいろなレコードを聴けるし、大学生や社会人の常連さんたちもやさしかったので、週に何度か通っていたように思います。

ちなみに当時の井荻には、「マカロニほうれん荘」という漫画が大ヒットして絶頂期にあった漫画家の鴨川つばめさんが住んでいて、原稿の受け渡し場所もコーヒーイオギでしていたそうです。

「奥の席に編集者と向かい合って座ってた」
「ベースボールキャップをかぶってたよ」

僕は見たことがありませんでしたが、常連さんたちからそんな話をよく聞かされ、「いいなぁ、僕も会ってみたいなぁ」と思っていたものです。

という話とはまったく関係がないのですが、今回書こうとしているのは、コーヒーイオギの常連さんだった、あるグループの人たちのこと。

大学生くらいだった彼らがクリスチャンで、日曜日には近所の大きな教会に通っていることは聞いていました。で、なぜかそのうち僕も、日曜日になるとその教会に遊びに行くようになりました。

といってもクリスチャンではないし、ミサには一度も出たことがありません。でもミサのあとは、広い敷地でたくさんの人たちが楽しそうに話をしたりしていたので、常連さんたちに混じってそのグループに加わるようになったのです。

あるとき、常連さんを含む教会の人たちが、鎌倉かどこかの修道院に行くという話をしていました。繰り返しますが、僕はクリスチャンではありません。なんの宗教も信じていません。

にもかかわらず、なんだかワクワクして「僕も行く!」と手を上げてしまったのでした。なんのことはない、修学旅行かなにかのような気持ちでいたわけです。バカにもほどがあります。

かくして参加することになった僕は、あろうことかラジカセを持参しました。修道院に行くということは、クリスチャンの方々の目的は修行のようなものだったはずです。しかし、そういう大切なことをまったく考えていなかったわけです。

修道院に併設された聖堂はなかなか立派で、それは僕の思惑を実現するには申し分ないように思われました。というのも僕はそのとき、あることを試してみたいと企んでいたのです。そのために、ラジカセを持参したのです。

「エアロスミスの『Rocks』っていうニュー・アルバムは倉庫でレコーディングされたから、教会で鳴ってるような音がするんだって。ヴォーカルのスティーヴン・タイラーがラジオで言ってた。だから、それを教会で流したらおもしろいんじゃないかと思ったんだよね」

聖堂を見学しているとき、ラジカセ片手にそう話したら、話しただけでなにもしていないのに、まわりの人たちが大慌て。申し合わせたかのごとく、まるで阿波踊りのように激しく手を動かしながら「いや! そんなことしちゃだめ!」「ここはそういう場所じゃないから!」などと声を潜めながらも激しく抗議してきたのでした。

かくして「エアロスミスの『Rocks』を聖堂で流してみよう計画」は未遂に終わったわけですが、本当にバカだったと思います。いや、いまでも充分にバカなのですが、あのころはバカに磨きがかかっていたとしか思えません。

1976年に発表された『Rocks』は、エアロスミスの4枚目のアルバム。「Last Child」「Home Tonight」「Back In The Saddle」をシングル・ヒットさせただけでなく、結果的には「Rats In The Cellar」「Sick As a Dog」なども代表曲となりました。

全米チャートでも3位まで登り、名実ともに彼らの代表作となったわけです。レコーディングされたのは、マサチューセッツ州ウォルサムの倉庫。

だから当然のことながら、スティーヴン・タイラーの言葉どおり“鳴り”がとてもいいのです。しかもハイレゾで聴きなおすと、立体感がさらに明瞭になっていることがわかります。

いま、改めてその音像に圧倒されながら、僕はあの聖堂での出来事を思い出しているのです。


◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『Rocks』
Aerosmith






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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」