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連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第3回

2014/09/22
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎え「ハイレゾでこそ楽しみたい!」という作品はもちろん「隠れた名盤」や「思い入れのある作品」など、e-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をセレクトする、「ミュージシャン視点」のハイレゾ・コラムです。

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【バックナンバー】
<第8回>「Deodato (前編)」
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」



連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第3回
チェット・ベイカー『枯葉』


『枯葉』(192kHz/24bit, DSD2.8MHz)
/チェット・ベイカー



チェット・ベイカーの音楽を初めて聴いたのは…たぶん中学生の頃、当時ファンだった佐野元春さんが“That Old Feelings”をFMで紹介していたのがきっかけだったと思います。スーパーロマンティックとしか言いようのないその夢のような世界に魅せられた僕はすぐに『Chet Baker Sings』の国内再発盤LPを手に入れて、長年に渡り愛聴してきました。同世代のロック・ファンにはエルヴィス・コステロ、83年の名曲“Shipbuilding”での哀感漂うトランペット・ソロの印象が強い人もいるかもしれませんね。

そんな僕が再度チェットの魅力にはまったのは2008年。その頃知り合ったカリフォルニアのThe Mattson 2というトミー・ゲレロなどと共に西海岸のサーフ・カルチャーで頭角を現していた20代前半の双子ジャズ・デュオと共作をしようということになりサンフランシスコまでセッションの旅に出た時のことです。彼らのプロデューサーであり、サーフィン映画「Sprout」の監督なども手がける多才なアーティスト、トーマス・キャンベルの自宅に招かれ、大のチェット・ベイカー・ファンである彼のレコードコレクション、そしてブルース・ウェバーやウィリアム・クラクストンらが撮影したチェットの写真などを見せてもらううちに、すっかりその魅力に落ちてしまったのです。

帰国後、チェット・ベイカーのアルバムをすべて聴いてみたい!という高まる好奇心のおもむくまま、彼の作品を手当たりしだいに探し始めたのですが、これが実にイバラの道でした。なんとチェットが遺したアルバムは200枚以上あったのです。特に後年、ヨーロッパを渡り歩き、様々なレーベルと単発契約しては大量のアルバムをリリースしていた時期には、なかなか入手困難なレア・アルバムも多く、ようやく99%の作品を収集できた(未だにどうしても手に入らない作品が2枚ほど残っているのです…。)と思ったときには軽く3年が経過していました。振り返ると自分でも馬鹿だな。。。と思うほど躍起になって挑んだ収集でしたが、一生をかけてゆっくりじっくりチェットの音楽を味わうのを楽しみに、宝ものとして大切にしています。

50年代にはウエスト・コースト・ジャズ界のジェームス・ディーンと呼ばれ一躍アイドル的なまでの脚光を浴びたチェットでしたが、麻薬中毒となりその人気も徐々に下降。60年代末にはドラッグ絡みのトラブルで暴漢に襲われ、トランペッターの命とも言える前歯を何本も折られるという事件もあり、音楽活動を休止してしまいました。そんなチェットが1974年に当時クロスオーバー~フュージョン的なサウンドで話題を集めていたCTI RECORDSから復帰アルバムとしてリリースしたのが今回紹介する『枯葉』です。

ドン・セベスキーによるアレンジの元、旧友のポール・デズモンドヒューバート・ローズロン・カーター、ジャック・ディジョネット、ボブ・ジェームスといったCTIオール・スターズを従え「昔より今のプレイのほうが10倍いい」と自らライナーノーツで豪語するように、前歯を失ったチェットが義歯による新たな奏法を確立し、その柔らかで暖かいトーンを存分に聴かせてくれる名作。“She Was Too Good To Me”、“What'll I Do”といった曲では唯一無二の甘くロマンティックな歌声も堪能できます。数多くのチェット作品を聴いてきましたが、特に復活後はここまでしっかりとしたプロダクション、かつ豪華なメンバーで録音された作品は数少なく、後期チェット・ベイカーを代表する一枚と言えるでしょう。

僕はこのアルバムの米国オリジナル1stプレス盤を持っているのですが、その太く、丸く、瑞々しい音質がかなり好みで、年に何度かは必ず針を落としてしまう愛聴盤なのです。録音を手がけたのは名匠として名高いルディ・ヴァン・ゲルダー。ブルーノートの名作をはじめ数多くのジャズ名盤を手がけたエンジニアです。

ジャズファンの中には彼が手がけた音を「あれは原音と違う不自然に作られた音だ」として認めない人もいると聞いたことがありますが、僕はそこも含めて大好き。余談ですがNYパンクを代表するバンド、TELEVISIONを率いたトム・ヴァーラインは名作『Marquee Moon』を本当はルディ・ヴァン・ゲルダーに録音してもらいたかったというコメントを残しています。あり得ない話ではありますが、これはなかなかに興味深く、そしてトム・ヴァーラインの素晴らしいセンスをも感じさせる発言だと思います。

『枯葉』のオリジナル原盤はルディ・ヴァン・ゲルダー自身がアナログカッティングしているので、その技巧も含めた最終形の音質を楽しんでいるのですが、e-onkyoで配信されている今作を含むハイレゾ版CTI音源は当時日本盤用に本国から送られたキング・レコード保有のオリジナル・マスターテープを使用し、本来のサウンドを活かすため、あえてイコライザーやコンプレッサーなどを使用せずダイレクトにマスタリングされたとのことで、もしかするとカッティング前のマスターテープに近い音を楽しめるのでは!?と期待してダウンロードしてみました。さらに「PCM 192kHz24bit」と「DSD 2.8MHz」の2つのフォーマットにそれぞれ別途マスタリングされたものがあったので両方を聴き比べてみたら、その違いも面白い結果でした。

「PCM 192kHz24bit」ヴァージョンはもっこりと塊になって迫るオリジナルアナログ盤とはかなり違い、より鮮烈に個々の音を感じさせてくれる印象。「こんなプレイをしていたのか!」とレコードでは意識していなかった細部に耳が惹かれる驚きとともに、原盤に比べかなりクリアで鮮度が高いその音は「マスターテープはこんな音だったのかも。。。」と感銘を受けつつも、少々戸惑いを感じてしまうほど。

そして噂はかねがね聞いていたものの、実は今回が初体験となる「DSD 2.8MHz」ヴァージョン。DSDはよりアナログに近いなどと紹介された記事を見かけたことがありますが、言い得て妙ですね。一聴すると「PCM 192kHz24bit」ヴァージョンに比べて音量レベルも低く感じられますし、音も丸い印象なのですが、聴き進めると細部に耳がいくと言うよりも音楽全体に包まれる心地良い感覚があり、僕が好きだった『枯葉』アナログ盤の良さをキープしたままデジタルの世界にアップデートされたような雰囲気。
というわけで僕の個人的趣味では「DSD 2.8MHz」ヴァージョンの『枯葉』に今回軍配が上がりましたが「PCM 192kHz24bit」ヴァージョンのほうがずっと鮮明でいい音だよ!っていう嗜好の人もいるでしょうね。どちらのフォーマットで聴いても、アナログの原盤とはまた違った新たな作品の魅力が感じられたのは事実。ハイレゾのフォーマット違いに関してはかなり初心者の自分にとってなかなか悩ましい体験でしたが、大好きなアルバムだとこういった聴き比べも楽しいものですね。!

『枯葉』(192kHz/24bit, DSD2.8MHz)
/チェット・ベイカー



■「CTI Supreme Collection」シリーズ全タイトルはコチラ




片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト

『愛の関係』(96kHz/24bit)
/GREAT3





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