PC SP

ゲストさん

NEWS

西寺郷太 presents ハイレゾ”POP”英雄伝説

2018/09/10
NONA REEVES 西寺郷太です。ワーナー・ミュージックの抱える豊富な洋楽カタログから、1973年生まれの僕が少年時代に影響を受けた80年代のポップ・ミュージックを中心に30枚(29枚+1枚)セレクトしてみました。 ここ10数年のレコード・レーベルの吸収合併などの結果「あ、このアーティストも今はワーナーなのか!その上、ハイレゾ化されてる!」など発見も多々あり、楽しい選盤作業でした。


ノルウェイ出身のa-haが放った傑作ファースト・アルバムと、リード・シングル「テイク・オン・ミー」のアニメーションによる衝撃的なヴィデオは、MTVが主導した80年代の音楽文化の象徴だった。



 マドンナは、1986年6月リリースのアルバム『トゥルー・ブルー』のジャケット撮影で突如トレードマークだったブロンドヘアを切り、ショートカットになった。派手なファッションとスキャンダラスなキャラクターで「MTV世代」のシンボルとなったマドンナの人気を一時的だと論じた者も多かった。しかし、デトロイト出身ならではのダンサブルなモータウン・サウンドのリバイバルを軸に、旬のプロデューサーを彼女自身が選ぶスタイル、強く優しい赤裸々さに満ちた詞世界を遂に完成させている。
 70年代以前から活躍するドナルド・フェイゲン、フリートウッド・マック、Yesらベテラン勢も80年代には「MTV時代」の到来の嵐の中、めくるめく傑作アルバムを完成させメタモルフォーゼ。大ヒット作として、サヴァイバルに成功した。ヴァン・ヘイレンも心情的には「デイヴ・リー・ロス派」ではあるのだが、サミー・ヘイガー加入直後の「ホワイ・キャント・ディス・ビー・ラヴ」とアルバム・トータルのフレッシュさ、完成度が高過ぎて迷った末、このアルバム『5150』を。
 フリートウッド・マックの全キャリアで、一番好きな曲はクリスティーン・マクヴィー作の「リトル・ライズ」。「荒井由実」期、の松任谷由実さんと同様のムードと才気を、クリスティーンに感じるのは僕だけだろうか。  ドナルド・フェイゲンに関しては、御多分に洩れず全アルバムに心酔しているが、やはり一枚と問われ、それも「ハイレゾ」の高音質で、と言うなら世紀の名盤『ナイトフライ』を選ぶ。



シックのギタリスト、ナイル・ロジャース、そしてバーナード・エドワーズとトニー・トンプソンによるリズム・セクションは、人種によるカテゴライズを超越し新世代のグルーヴを発明した。



 ナイル・ロジャースの両親はアフロ・アメリカン。しかし、離婚した後に母親が再婚したのは白人男性だった。少年時代のナイルは「黒人が差別された歴史」を知らぬまま義父に愛され育った。「たまたまお父さんは肌の白い人」、彼はそう思っていたと言う。その家庭環境から、いわゆるR&Bとレッド・ツェッペリンなどの白人ハード・ロックを自然に双方ともに愛するようになったナイルが、後にデヴィッド・ボウイ、デュラン・デュラン、マドンナなどのプロデュースで大成功を収めたのは彼が安易なカテゴライズを破壊する思想の持ち主だったからに他ならない。シックのグルーヴは、シュガーヒルズ・ギャングに「サンプリング」され、ヒップホップの歴史を未来に進めた。1980年8月にリリースされたクイーンによる「オマージュ」作、「アナザーワン・バイツ・ザ・ダスト(地獄へ道づれ)」は、フレディ・マーキュリーの友人だったマイケル・ジャクソンの強力な推薦を受けてシングル・カット。メンバー間では、あまりにもそれまでのバンドのカラーと違う楽曲性にシングル化に際して波乱を生んだというが、結果マイケルのアドバイスは大当たり。全米ナンバーワンを獲得し、白人ロック・シーンをも飲み込み「80年代音楽」の雛形となる。
 一方、黒人音楽に憧れた英国白人ブルースマン、エリック・クラプトンはアルバム『オーガスト』で、YMOとマイケル・ジャクソンの「幻のコラボレイト作」である「ビハインド・ザ・マスク」をカヴァー。YMOとの不思議な蒸着は、マイケル・ジャクソン、クラプトンの両陣営でサウンドの鍵を握った鍵盤奏者グレッグ・フィリンゲインズが触媒となって実現した。
 僕にとって、初めてのマイルスは1992年夏に留学先のパリで買って狂ったように聴いた『ドゥー・バップ』。未完のまま、マイルスが制作中に亡くなったことから正当な評価を与えられていないとも聞くが、大好きなアルバムだ。



ポップ・ミュージックの歴史の主役が集う、英雄たちの宴。レイ、アレサ、チャカ、ダニー、ミック。人間の歌声こそ、最も理屈を超え感情を揺さぶる不条理な魔法だ。





 先日亡くなったアレサのアルバムは、ハイレゾであることを最も体感出来るライヴ盤を。ハイレゾ化で、最も理屈抜きに体感モードが変わるのがやはりヴォーカル、そして会場の空気感であると僕は考えるので、ダニー・ハサウェイやレイ・チャールズも「ライヴ」を。
 2018年リリースの新曲「Like Sugar」によって若い世代からも注目を集めるチャカ・カーン。でも、やはり僕は、プリンスの「I FEEL FOR YOU」を、1980年代を象徴するヒット・チューンとした傑作カヴァーが忘れられない。少年時代、冒頭のラップ「シャカ、シャカ、シャカカーン!」だけでノックアウト。今に至るまで、その心地よいフィーリングに酔い続けたままだ。
 ちなみに異端のイメージで知られるプリンスが意外にも「アメリカの国民的歌手」ケニー・ロジャースに「You’re My Love」なる名曲を提供していることは、あまり知られていない。別名義を使用しているけれど、プリンスもケニーの歌声が心から好きだったんだと思う。ワーナーからは、ケニーのアルバム『You Can’t Make Old Friends』がハイレゾ化されているので選ばせてもらった。生楽器の豊かな響き、ヴォーカルの色艶の比重が高いカントリーとハイレゾの相性はかなり良い。
 ミック・ジャガーの『ワンダリング・スピリット』は、シングルの「スウィート・シング」が好き過ぎて……。発売直後の93年、大学二年生だったその時期に夜から朝までその一曲だけを繰り返し聴き続けていたら、当時ウチに泊まりに来た現NONA REEVESのドラマー小松シゲル(学生時代の同期)に「いい加減にしてくれ!」と呆れられたことをよく覚えているほどハマって(笑)。ミックもまた、その「声」と独特のリズムのスピード感とモタり、タメのコントロールにより世界を制したヴォーカリスト。レニー・クラヴィッツとの共演「ユーズ・ミー」も素晴らしい。



ブリット・ポップ・ブームが終焉した1997年、聴きまくったのがヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ローデッド』。こういう音数が少なく曲と声の良いナチュラルでローファイなロック・アルバムこそ、敢えてハイレゾで聴きたい。




 90年代のバンドで最も心酔したのが、ブラー。ちょうど自分のバンド、NONA REEVESがワーナーと契約してプロになるか、ならないか、など誘いが来た頃、1997年2月にリリースされたのが、この5枚目のセルフ・タイトル・アルバム『ブラー』。今、振り返るとプロになってからは、どうしても同業者的視点で音楽を聴いてしまう職業体質が染み込んでしまった(それは、音楽で生きていくことを選べた結果であり嬉しいことでもある)僕にとって、最後のズブズブと呑気に音世界に溺れたアルバムだったように思う。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ローデッド』も、個人的には自分の90年代後半を彩るアルバムのひとつだ。
 ドナルド・フェイゲンをソロで選んでおいて、ここでスティーリー・ダンの『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』を挙げるのは少しだけ狡い気もしなくもないが、発売当時70年代の彼らに比べ、異様にデジタリーでクリア、硬いサウンドに感じたこのアルバムをハイレゾで聴くのは乙なものだ。一番好きな曲は、「ネガティヴ・ガール」。
 そして『ラント:バラッド・オブ・トッド・ラングレン』。この時期のトッド・ラングレン以上に才能に満ちたシンガー・ソングライターは存在しない。僕は、そう思う。NONA REEVESでカヴァーもした「ウェイリング・ウォール」の、トッドの声とアコースティック・ピアノの響きの奥深さたるや。




 もし、誰にも会えない孤島で一時間後に死ななければいけないと告げられれば、僕はハイレゾでトッド・ラングレンのアルバム『ラント:バラッド・オブ・トッド・ラングレン』を聴くだろう。そうしたら、何があったとしてもそれなりに幸福な死だと思える気さえする。
 豊かな音は人を狂わせる。根底から酔わせる。
 今後、無数のアーカイブがさらにハイレゾ化され、究極の高音質が当たり前になり、「ハイレゾ」という概念さえなくなる時代が来ることと思う。作り手としても、その日が早く来ないかと待ちわびている。
 選盤最後の一枚は、自分のバンドNONA REEVESの最新作『MISSION』。ドラム、ベース、ギターやホーン・セクションはもちろん、シンセサイザーも実機演奏にこだわった生演奏の響きの違いを味わってほしい。ここ数年、僕らもレコーディング時点で「ハイレゾ」化を念頭に置いて進めている。


『MISSION』ノーナ・リーヴス




●文:西寺郷太(NONA REEVES)


西寺郷太 Gota Nishidera
Produce, Song Writing & Vocal
<プロデュース、作詞、作曲、ボーカル>

1973年東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成したバンド『NONA REEVES』のシンガーであり、多くの楽曲で作詞・作曲も担当している。音楽プロデューサー、作詞・作曲家としては少年隊やSMAP、V6、KAT-TUN、岡村靖幸、中島美嘉などの多くの作品に携わる。また、ソロ・アーティスト、堂島孝平・藤井隆とのユニット「Smalll Boys」としても並行して活動。
そして、日本屈指の音楽研究家としても知られ、特にマイケル・ジャクソンをはじめとする80年代の洋楽に詳しく、これまでに数多くのライナーノーツを手がけ、近年では80年代音楽の伝承者として執筆した書籍の数々がベストセラーに。代表作に小説「噂のメロディー・メイカー」(扶桑社)、「プリンス論」(新潮新書)など。
テレビ・ラジオ出演、雑誌の連載などでも精力的に活動し、現在WOWOWのインターネット番組「ぷらすと」にレギュラー出演中。


<NONA REEVES 配信作品>


『POP'N SOUL 4824~The Very Best of NONA REEVES』ノーナ・リーヴス