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【スペシャル・インタヴュー】 エディ・ゴメス、スティーヴ・ガッドらと共に、3人のSir,による充実作をリリースしたデビッド・マシューズ

2018/08/03
アレンジャーとして、ジェームス・ブラウンからサイモン&ガーファンクルまで多数のアーティストに関与。1976年にはグラミー賞を受賞。1978年には日本のキングレコードと契約し、ピアニスト/アレンジャーとして数多くの名作を生み出してきたデビッド・マシューズ。

ジャズ・シーンを支え続ける彼の最新作は、エディ・ゴメス&スティーヴ・ガッドとのピアノ・トリオ編成によるNY新録音です。3人の「Sir,(先生)」による充実作は、どのようにして誕生したのでしょうか? 制作の裏話から音楽についての持論まで、さまざまなお話をお聞きしました。

インタヴュー・文◎印南敦史


『Sir,』/ David Matthews, Eddie Gomez & Steve Gadd



--新作『Sir,』では、マンハッタン・ジャズ・クインテットの初代メンバーであるスティーヴ・ガッド、エディ・ゴメス両氏とひさしぶりに共演されています。彼らと組むのは久しぶりだと思うのですが、どのような経緯で実現したのでしょうか?

デビッド・マシューズ(以下マシューズ) 「そうですね、彼らがマンハッタン・ジャズ・クインテット(以下MJQ)のメンバーだったとき以来です。今作をどうすべきか、いろいろなスタッフと考えた結果、今回はふたりと一緒にやってみようかということになりました。3人だけでセッションしようということであれば、それはいつだってできることです。でも、そんな思いを、知識豊富で業界に慣れ親しんでいるスタッフの方々が最良の形で取りまとめてくれたんです。

プロデューサーの藤井真一さんもスティーヴやエディと昔から仕事をしてきている方ですし、MJQの知識も豊富でした。ですから本当にやりやすく、私自身もスティーヴやエディのように偉大なミュージシャンと一緒にできたことを喜ばしく感じています」

--そのせいか、まるで先週まで一緒にいた友だちと一緒に楽しんでいるような、リラックスしたムードを感じます。

マシューズ 「まさにそのとおり。そんな感じでレコーディングしたんです。いろんなことを考え抜いたというよりも、自由に、思うがままにプレイしようという気持ちで取り組んだわけです。ですから、その雰囲気が音にも表れたのだと思います。『セッションしてみようよ』とプレイしたら、たまたまそれがレコーディングされていたというような感じ。ですから、どの曲もワンテイクで録ることができて、スムースに進みました」

--まるでスタジオ・ライヴのようだなと思ったんですが、そういうことが影響しているんですね。

マシューズ 「そうですね。いま思い出したんですが、ビル・エヴァンスとジム・ホールの“マイ・ファニー・ヴァレンタイン”(筆者注:アルバム『Undercurrent』に収録)ができた成り立ちによく似ているかもしれません。私もその話をどこかの音楽雑誌で読んだんですが、彼らがふたりでスタジオに入ってプレイを楽しんだら、たまたまエンジニアが録音していた。それが、世紀に残る素晴らしい作品になったというのです。『Sir,』の成り立ちも、そのエピソードによく似ています。成り行きのままに演奏すれば、楽しい作品に仕上がることが多いということかもしれませんね」

--オリジナル曲は、どのような経緯があって生まれたものなんですか?

マシューズ 「難しい質問です。というのも、それは自分でも説明しにくいのです。なぜなら、曲がどう浮かび上がってきたのか、自分でもわからないからです。たとえばピアノの前に座って、ちょっと鍵盤を触ってみたとしますよね。そうしたら、使えそうなフレーズが浮かび上がってくるんです。で、PCに保存しておいたそれらを、音楽としての完成度を意識しながら再構築していく。いわば、そういうプロセスが自分の仕事なのです。言い換えれば、インスピレーションとエディットの工程がほぼ同時に起きているようなもので、それを無意識に行なっているのです。感覚的には、意図したものではなく、勝手に起きているような感じ。最終的には、どのパートを楽曲に落とし込んでいくか、それを判断するのが自分の義務だと思っています」

--「Stella by Starlight」「'Round Midnight」など、カヴァー曲も親しみやすい楽曲が並んでいますね。

マシューズ 「私も日本に住んでずいぶん経ちますし、国内のいろんなところでプレイしてきました。ですから今回も、あちこちでプレイしてきて、人気の高かったものばかりを選んだのです。自分でも演奏していて楽しい曲なので、『だったら、いっそ収録してしまおう』ということでテープを回す……ではなくPCに保存したんです(笑)」

--リード・トラックの「Sir,」をサンプリング・フリー(ダウンロードすれば、自由にサンプリングすることが可能)にしてトラックメイカーに解放するそうですね。

マシューズ 「サンプリングは、若い世代にとって重要な手段ですからね。ただ、だからといって私個人は、サンプリングそのものを全面的に肯定しているわけではありません。サンプリングされる音楽は誰かが作ったものなのに、その所有権が認識されないまま使われていることは問題だと思うのです。でもそれは、それが違法行為であるということが認知されていないだけのこと。だったら、あえてサンプリングする権利を付与しようという考え方です。ですから「いちいち申請して許諾を取らなくても“自由”にサンプリングしてもいい」ということで、“無料”という意味ではありません。でも、その範疇でどう加工してもらえるのかは楽しみですね」

--なるほど。

マシューズ 「基本的に、サンプリングはアーティストからの窃盗行為だと思っています。今回の曲については好きなようにサンプリングしていただいてけっこうですが、だからといって私の他の曲も自由にサンプリングしてくれとはとても言えません。15年ほど前に『レッドブル・ミュージック・アカデミー』で講義をしたとき、サンプリングについて聞かれたことがあります。そのときには、『私の音楽を盗むな(Don’t steal my music.)』と答えました(笑)。

テクノロジーとして可能なことなので、間違ったことだと知らずにやる人がいるのは仕方ないと思います。でも、間違っていることは間違っていると言わなければいけないとも思うのです」



--ところで本作は、ハイレゾとの親和性が強いと思います。でもサウンド・クオリティについては、日本人が一番熱心なのではないでしょうか?

マシューズ 「同感です。日本のカルチャーとして、“音質にこだわる”という傾向はありますよね。ただ、日本にこれまで住んできて感じることもあるのです。集合住宅に住んだ場合は周囲への配慮も必要なので、自分の望む音量でなかなか聴けないということです。本当なら、『ここまで(音量を)上げれば、自分の聴きたい音質になる』ということがわかるのですが、近隣の迷惑になるから上げられない。私自身、そういう経験をしているのです。幸い現在は一軒家に住んでいますから、好みの音量で聴けるようになっていますが。そのあたりは、多くの人のジレンマでしょうね」

--MJQやマンハッタン・ジャズ・オーケストラ(以下MJO)など、キングレコード原盤の仕事に70年代後半から関わっていらっしゃいますが、どのような経緯で実現したのでしょうか?

マシューズ 「当時のキングレコードのプロデューサーから『日本のマーケットに向けて作品をリリースしてほしい』という依頼を受けたのが最初です。そして1979年に、キーボード奏者の益田幹夫さんの『ゴーイング・アウェイ』という作品を手がけました。それが最初ですね。その後、いくつかの作品に関わったのち、『スイングジャーナル』編集長(当時)の中山康樹さん(故人)から『ハッピーにスウィングするレコードを作りましょう』という提案があって、それで1984年にMJQが結成されたのです」

--あの時代はバブル経済前夜だったからこそ、予算的にも余裕があり、いろんなことができたのではなかと思います。当時を振り返ってどう思いますか?

マシューズ 「たぶん、そうだったでしょうね。バブルの好景気も、多少は影響があったと思います。本来であればリスクのあるようなプロジェクトであったとしても、きちんとお金をかけて取り組むことができたのですから。他の時代だったら難しかったでしょうが、あの時代だったからそれが可能でしたし、大きな意味と影響力のある作品を作ることができたのだと思います」

--これまで手がけてきた作品で、特に思い出深いのはなんですか?

マシューズ 「うーん……特にお気に入りがあるかといったら、答えは『No』です。絞りきれないからです(笑)。でも、印象的なエピソードはありますよ。熊本地震の直後、3日かけて車で熊本から東京まで移動したことがあったんですが、その間(ちょうど当時リイシューされた旧作達のサンプルCDが車に積んであったので)、MJQ、MJOのすべてのCDを聴いたのです。そのとき自分でも『すごくいいなあ』と改めて思いましたし、こんな音楽を作れるメンバーのひとりで本当によかったなとも感じました」

--日本のジャズ・ファンについてどう感じていますか?

マシューズ 「おそらく、どんなジャズ・ミュージシャンも気づいているだろうと思うのですが、日本のオーディエンスはユニークなところがあります。アメリカのアーティストがやっていることを、深く受け入れてくれる器があるのです。理由はわからないのですが、アメリカでほんのわずかなリスナーしかつかなかった音楽でも、それが良質であれば日本だったら広く深く受け入れてくれる。そういった器が日本のオーディエンスにはあると思います。ジャズ・アーティストがやっていることを受け入れて、そして好んでくれるので、本当にそれはありがたいと思っています」

--貴重なお話ありがとうございました。


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