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GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」 第20回 チェット・ベイカー

2018/07/13
95年のデビュー以来、普遍と革新を併せ持ったサウンドで、ミュージックシーンのみならず、カルチャーシーンからも大きな支持を得てきたバンド=GREAT3。その中心人物であり、業界屈指の音楽マニア、そしてアナログ・コレクターとして知られる片寄明人をセレクターに迎えe-onkyo musicの豊富なカタログの中より片寄明人が面白いと思う作品をランダムにご紹介するハイレゾ・コラムです。

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連載 GREAT3片寄明人の「ハイレゾ・コラム」第20回
チェット・ベイカー『イン・トーキョー~愛蔵版~)』



『イン・トーキョー~愛蔵版~』
/チェット・ベイカー



今回は大好きなチェット・ベイカーのライヴ盤でございます。1950年代、ウエストコースト・ジャズ界きっての美青年として人気絶頂を極めるも、麻薬と深い恋に落ち、トランペッターの命ともいえる前歯をトラブルで失い、低迷期へ。そして1974年、CTIからリリースされた「枯葉」を契機に復活。ヨーロッパを中心にツアーとレコーディングをひたすら続け、最後は1988年、58歳とは信じがたいほど年老いた姿でこの世を去ったチェット。

70年代半ば以降、その場でギャラをもらう1回限りの契約で、彼が制作したスタジオ録音、ライヴ盤は100枚近くにものぼります。その出来はまさに玉石混交、特にライヴは麻薬に起因する体調の関係も大きく、精彩を欠いた演奏を収録した盤も少なくありません。

しかし、どんなコンディションの悪いライヴにも、ハッとさせられるほど美しい即興のメロディーが、そこかしこに散りばめられているのがチェットの魔力。その一瞬の快楽を味わいたいがために、僕も気がつけば200枚を超えるチェット・ベイカーのアルバムを集めていました。それはまるでライヴ・テープをコレクトするグレイトフル・デッドのファン、デッドヘッズのメンタリティ。残されたすべてのライヴ音源を聴きたい!と思わせる、魔窟のような世界だったのです。

チェット史上最高のライヴ盤は?との問いに対する答えは、人によって様々だと思いますが、後期チェット・ベイカーの真髄が味わえ、しかも一般のジャズ・ファンにも有無を言わせぬ名盤として名高い奇跡のライヴ作品がハイレゾ化されています。それがこの、2度目にして最後となった1987年の来日公演を収録した「チェット・ベイカー・イン・トーキョー」なのです。

亡くなる前年の1987年6月14日、会場は東京の人見記念講堂。普段はドラマーとの演奏を好まず、ピアノ、ベースとのトリオや、ギターかピアノとのデュオといった編成でのライヴが多かったチェットでしたが、このツアーではドラムにジョン・エンゲルスを迎え、ピアノにハロルド・ダンコ、ベースにヘイン・バン・ダヘインを加えた4人編成での来日でした。

基本的に着の身着のままステージに上がり、時にはクスリでむくんだ足にサンダル姿でライヴを行うこともあった晩年のチェットですが、この日は50年代を彷彿とさせるシックなスーツを身に纏い、熱狂的に迎えるファンの前に現れました。

ヨーロッパではどこの国でも麻薬を現地調達、もしくは持ち込んでいたチェットでしたが、来日中は、ヘロインの禁断症状を緩和するため医師から処方されたメタドンと、少量のコニャックで乗り切り、バンド・メンバーが驚くほど安定したコンディションで演奏に挑んだそうです。

その結果、「いまのチェット・ベイカーにこんな演奏ができるなんて!」と世界中のジャズ・ファンを驚愕させた熟練のプレイが繰り広げられることとなりました。来日前後に行われたイタリアでの録音を聴くと、とても同じ人物とは思えないほど散漫な出来で、これがあらゆる意味で奇跡的なライヴだったことを強く感じます。

後期チェットの定番ともいえる曲が並んだ、この夜のセットリスト。なかでも僕のおすすめは、メランコリックで美しい、一連のバラード曲です。その筆頭に挙げたいのが、翳りある名曲「オールモスト・ブルー」。チェットの「スリル・イズ・ゴーン」に影響を受け、エルヴィス・コステロが書いたナンバーです。

TVで共演したヴァン・モリソンを「あれは歌じゃない」とこき下ろし 晩年のチェットを描いたドキュメンタリー映画「レッツ・ゲスト・ロスト」撮影時には、監督のブルース・ウェバーからトム・ウェイツの「ジャージー・ガール」を演奏するよう薦められたものの、頑として受け入れなかったチェット。そんな彼が唯一愛し、死の間際まで歌い続けた、ロック・ミュージシャンの手による楽曲です。

さらに「オールモスト・ブルー」に負けないほど切なくダークな世界へ、耽美に堕ちる感覚を味わえる「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」も必聴。そしてチェットと素晴らしい共演盤も残しているフュージョン系ブラジルの鍵盤奏者、リッキー・パントージャ作の「アーバーウェイ」や、アントニオ・カルロス・ジョビン作曲の「ポートレイト・イン・ブラック・アンド・ホワイト」といった、ブラジリアン・フィーリングあふれる哀愁の世界もたまりません。

極めつけはチェット・ベイカーを象徴するスタンダード・ナンバーともいえる「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。この夜のソロは、まさに一世一代の名演と呼びたくなる素晴らしさです。

LP、CD時代から良質な録音で知られるも、一時は廃盤で入手困難だったこの伝説のライヴ。ハイレゾで楽しめるとは至福の極みです。これはまさに愛蔵版でございます。



【バックナンバー】
<第19回>The Isley Brothers『Wild in Woodstock』
<第18回>Bill Withers『Watching You Watching Me』
<第17回>David Robert『All Dressed Up』
<第16回>「Elvis Costello (後編)」
<第15回>「Elvis Costello (前編)」
<第14回>「James Taylor (後編)」
<第13回>「James Taylor (前編)」
<第12回>「The Beach Boys & Brian Wilson (後編)」
<第11回>「The Beach Boys & Brian Wilson (前編)」
<第10回>「特別対談 with jan」
<第9回>「Deodato (後編)」
<第8回>「Deodato (前編)」
<第7回>「The Velvet Underground(後編)」
<第6回>「The Velvet Underground(前編)」
<第5回>「The Who『四重人格』(後編)」
<第4回>「The Who『四重人格』(前編)」
<第3回>「チェット・ベイカー『枯葉』」
<第2回>「GREAT3『愛の関係』 」
<第1回>「はじめまして、GREAT3の片寄明人です。」




片寄明人 プロフィール

1968年5月23日 B型 東京都出身
1990年、ロッテンハッツ(片寄明人、木暮晋也、高桑圭、白根賢一、真城めぐみ、中森泰弘 )結成、 3枚のアルバムを残し、94年に解散。
1995年、GREAT3のボーカル&ギターとしてデビュー。
現在までに9枚のアルバムをリリース。高い音楽性と個性で、日本のミュージックシーンに 確固たる地位を築いている。最新作は2014年リリース「愛の関係」(ユニバーサル-EMI)。
2000年には単身渡米。Tortoise、The Sea & Cake、Wilcoのメンバーらと、 初のソロアルバム "Hey Mister Girl!"を制作。
2005年、妻のショコラとChocolat & Akito結成。
現在までに3枚のアルバムをリリース。最新作は「Duet」(Rallye Label) 。
明と暗、清濁併せ呑んだ詞世界を美しい旋律で綴り、一糸乱れぬハーモニーで歌うライブは必見。
近年は新進気鋭のプロデューサーとしても活躍。
Czecho No Republic、フジファブリック、SISTER JET、GO!GO!7188、メレンゲ、などを手がけている。
また作詞作曲、CMナレーション、DJ、各種選曲、ラジオDJなどの活動でも活躍中。

◆GREAT3 オフィシャルサイト


『愛の関係』/GREAT3





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