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【7/6更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/07/06
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
イーグルス『Take It Easy』
16歳のときに思春期特有の悩みを共有していた、不思議な女友だちの思い出


16歳のとき、ラジオ局の文化放送が開催した企画に受かり、カリフォルニア・ロサンジェルスに無料で2週間のホームステイ体験をしたという話は前に書いたことがあります。詳しくはこちら⇒をご参照いただきたいのですが、今回はもうひとつ、そのときのことに触れたいと思います。

前の原稿にも書いたとおり、僕は15人のメンバー中いちばんの問題児でした。そのため、番組代表として同行してくださったばんばひろふみさんから、大変心配されたわけです。

そして、ばんばさんは僕と同じように、ユカという女の子のことも気にかけていました。早い話、ばんばさんにとってはユカと僕が心配の種だったのです。

2歳年上で、高校3年生だったユカは、とにかく強烈な個性の持ち主でした。明るくベラベラとよくしゃべり(周囲が引いてもよくしゃべり)、どんな人でも自分の世界にぐいぐいと引き込んでしまうようなパワーがあったのです。

しかも強い牽引力があるのに、決して人を不快にさせるようなことはありませんでした。非常に強烈なキャラクターの持ち主であるわけですが、「どこにいても浮く」と言われ続けてきた僕から見ても、「こいつは浮くだろうなぁ」という感じでした。

つまりは似た者同士だったということで、仲よくなるのも当然だったのかもしれません。女性として意識したことは一度もなかったのですが、いい友だちだったわけです。だから帰国後もよく会っては、飽きもせず何時間も話をしたりしていました。

そういえば、渡米の半年後にうちが火事で全焼したときにも、ユカいち早く駆けつけてくれたんだよなぁ。高校卒業後に就職した彼女の会社に、僕が思わず電話してしまったのでした。

「もしもしユカ? 仕事中にごめん」
「なに、どうしたの?」
「あのさ、家が火事になった。ばーちゃんの火の不始末で」
「えっ」

すぐにかけつけてくれたユカは、「大丈夫ですよ、またお父さんが素敵な家を建ててくれますよ」と僕の母に声をかけてくれました。ユカの話を聞きながら、母が目に涙を浮かべてうなずいていた光景が記憶に残っています。

恋愛感情を抱いたことはまったくなかったのだけれど、そのときだけは、「この子と一緒になってもいいかな」と感じたりもしました。とはいえまだ僕は17歳だったし、その後、そういう話が出ることは一度もなかったのですが。

話が前後してしまいましたが、その火事の半年前、アメリカ・ツアー最終日のことです。

最終日は午前中にホスト・ファミリーと別れ、以後はメンバー全員でアナヘイムのディズニーランドへ行きました。まだ日本にディズニーがなかった時代でしたから、なかなか贅沢な体験だったと思います。そしてその晩は、ディズニーランド・ホテルに泊まりました。

最後の夜だということで、メンバーはみんなどこかへ遊びに行っていました。でも、どういうわけだかユカと僕だけは、ばんばさんのために用意されたツインルームにいました。僕らふたりだけは、どうやっても団体行動から外れてしまうのでした。

ちなみにそのとき、ばんばさんは不在。ユカと僕は、2台並んだベッドにそれぞれ寝転がりながら、ずっと話をしていました。

そのころはふたりとも、同じ悩みを抱えていました。

「自分が嫌でたまらない」
「なんとか自分を変えたい」

そんな、思春期の子どもなら誰でもぶち当たるであろう、よくある悩みです。でも真剣に悩んでいましたから、ああしてみよう、こうしてみようと、いろいろ話し合っていました。答えなんか出るはずがないのに。

「なんだお前ら、こんなところにいたのか」

ずいぶん時間が経ったころ、ばんばさんが部屋に戻ってきました。かなり飲んだみたいで、完全にできあがっていました。

ユカと僕は、それまで話していたことをばんばさんに伝えました。聞いていたのかどうかも怪しいばんばさんは、テラスに出て、こちらに背を向けて椅子にどしっと座りました。

「ユカ、印南」

ばんばさんはこちらに背を向けたまま、ディズニーランドの夜景を眺めながら話しはじめました。

「自分を変えるのなんて無理やし、うまくいかん。いまの自分を、どう生かすかを考えるべきなんや」
「だいたいおまえらな、考えすぎや。Take It Easyや。Take It Easyでええんや」

いうまでもなく、「Take It Easy」はイーグルスのデビュー・シングルです。ばんばさんはその曲についてよく話していましたから、そこでその曲名を引き合いに出してくることも、なんとなく理解はできました。

ただ、まだまだ視野の狭いガキだった僕は、「なんだか軽いこと言ってるなぁ」としか思えませんでした。浅かったわけです。でも、そこから人生経験を積み上げていく過程で、「Take It Easy」という言葉の本当の重みを少しずつ理解できるようになっていったように思います。

さて、このコーナーでイーグルスを取り上げるのは、『One Of These Nights』について二度目です。たまたまファースト・アルバムの『Take It Easy』をハイレゾで聴いてみたら立体的な音像に度肝を抜かれ、鳥肌を立てながら感動していたら、ユカのこと、ばんばさんのこと、あの夜のことを思い出してしまったのです。

だから、どうしても書きたかったのです。
が、話はここで終わりではありません。

ばんばさんにはもう10年近く会っていませんが、連絡先もわかっているし、いつかまた再会できるだろうと思います。しかし、問題はユカです。なにしろ、もう30年以上ごぶさたなのですから……と書いて気づいたけど、30年どころか、あのLAツアーからちょうど40年ですわ。歳とるはずだぜ。

正確にいうと8年ほど前に「ひさしぶりに会おうか」とメールで連絡を取りあったのですが、結局はそのまま会うこともなく時間が過ぎてしまったのでした。

だから気になって、『Take It Easy』を聴きながら彼女の名前を検索してみました。いくらなんでも、そろそろ会うべきだと思ったから。

すると、全然知らない人のブログにその名を発見しました。ユカの本名は変わっていたけれど、そこに書かれていた名は、一字一句同じでした。また、そのブロガーと彼女がダイビングという共通の趣味でつながっているという話にも納得できました。高校を卒業してすぐ、ユカはダイビングにハマッていたから。写真も載っていましたが、それはどこから見てもユカでした。

そこには、ユカの一周忌が行われたことが書かれていました。

「えっ……」

小さく声を出していました。会ったこともないその人の文章のなかには、僕が知っているユカとまったく同じキャラクターの女性が描写されていました。掲載されていた写真も、一周忌のときのものでした。

そのブログが書かれたのは2013年3月。つまり彼女は53歳で亡くなったことになります。そして5年前といえば、メールでやりとりをしてから3年後。そう考えると、「あのとき、なんとしてでも会っておけばよかった」と思えてなりません。

人って、いなくなっちゃうんだなぁ……。

若いころからダイビングに熱心で、健康そのものだったユカがもういないと思うと、そう実感せざるを得ませんでした。

ほんの、数日前のできごと。だから、このことは文章にしておきたかったのです。

ユカ、落ち込んだときとか困っていたとき、親身になってくれて本当にありがとう。いろいろな場面で助けてくれたからこそ、いまの僕がいるといっても過言ではありません。

遅ればせながら、心よりご冥福をお祈りします。




◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『Eagles』/ Eagles






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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」