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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第13回

2014/08/08
DSD録音を徹底的に追及した「DSD TRIO」に迫る本稿もいよいよ後編!後編ではその手法について更に詳しく切り込んでまいります。それでは早速どうぞ!
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
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『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう
~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~

【後編】

>>【前編】はこちら<<

■ DSDの超高域ノイズ問題

私は、DSD録音最大の欠点は、超高域のディザ・ノイズだと感じています。20kHzを超える超高域ノイズが聞こえるかというと、単体ではもちろん私も認識できません。しかし、音楽と一緒に鳴らしたときに、果たして影響はゼロなのでしょうか?この“音楽と一緒に鳴らす”というのがポイントです。私は、DSD方式特有の超高域ノイズが、音楽が鳴っている状態ならば認識できます。音が曇るという感じでしょうか。この超高域ノイズによる音質劣化を私よりも厳しく問題視しているのが、『LISTEN』/DSD trioのレコーディングエンジニアの赤川新一氏です。10年前くらいに一緒に仕事をしていたときから、赤川氏はDSDの超高域ノイズを指摘し続けていました。私も最初は「そんなもの聞こえないよ」と煙たがっていたのですが、一度気付いてしまうとさあ大変。嫌いな食材が入っていると、いかに細かくすりおろされていても、分かってしまうと味が気になって食べられないのと同じです。それから私もDSD超高域ノイズが認識できるようになってしまい、もう逃れられません。DSD規格のハイレゾ音源を今まで太鼓判として選出しなかったのは、そのためです。

波形マニアの方は、ぜひDSDの超高域ノイズを確認してみてください。DSD音源をPCM変換すれば、20kHzを超えたあたりに盛り上がった超高域ノイズが観察できると思います。問題は、この不自然なノイズの盛り上がり。自然界では考えられない、音楽とは無関係のノイズ領域がDSD規格には存在するのです。

■ レコーディングエンジニアが斬る、DSD超高域ノイズ

エンジニアの赤川新一氏に、このDSDディザノイズについてインタビューしました。

赤川:「アナログとDSDの比較で、どっちのサウンドが生に迫っているかというと、もはやDSDがアナログを超えていると言えるでしょう。ただ、DSD方式の超高域にあるディザノイズを極力減らしたい。ノイズの量が20kHzを超えて上がっていくのが問題です。100kHzくらいまでいくと、ほとんどフルビットに近いくらいノイズが上がってくるんです。今回のDSD trioはサンプリング周波数が5.6MHzと、SACDフォーマットのときに比べて倍なので、そうするとその超高域ノイズが半分になるんですよね。フォーマット的に広がると、全体にあるノイズの総量は同じなので、なだらかになって半分になった。でも、まだ多い。

その超高域ノイズが存在することの音楽への影響は、制作現場のエンジニアはまだ誰も気付いていないんじゃないかな?なぜかというと、DSD方式のマルチトラック録音をやっている人がほとんど居ないはずだから。そもそもDSDマルチトラック録音マシンが無いから(笑)。

あの超高域ノイズはかなりの量で、8チャンネルくらい混ぜていくと、何もしてないのにメーターが振り出すんですよ。VUメーターって高音になるほど振らない特性なので、実際はノイズだけでゼロVUくらい振っているんじゃないかと思うんです。音楽を鳴らして、大したメーターの振りではないのに、その超高域ノイズの高音のエネルギーで、突然音が歪みだしたりするんですよ。EQでその超高域ノイズを切ってみたこともあるんですけど、それだと完全に音が変わっちゃう。せっかくのDSD録音のあの生々しい音が、何か丸められちゃったような感じになるんです。フィルターでは切りにくいというより、切れないといってもいい。音を変えずにフィルターであの超高域ノイズを切るのは無理でしょう。DSDの再生マシンで、今はフィルターのオン/オフを選べるようになっているんだけど、フィルターを入れた瞬間に音が変わるのが分かっちゃう。」

赤川氏のコメントにある通り、困ったことにDSD超高域ノイズは、チャンネル数が増えると加算されていきます。つまり、8トラック録音であれば超高域ノイズも8倍になるということです。超高域なので耳には聞こえないのですが、メーターは振り続けているという恐怖。そして音楽は曇りを増していきます。

DSD規格開発の技術者は、超高域フィルターでカットすれば問題ないと言います。しかし、フィルターを入れると、今度は音楽全体がそのフィルターを通ることになり、そちらの劣化のほうが超高域の曇りよりも気になるくらいです。

そこでエンジニアの赤川氏が考え出したのが、アナログ・テープに一度録音してしまうというアイデア。超高域の音が自然に減衰するというアナログ・テープ録音の特性を活かし、DSD超高域ノイズを対策しようという作戦です。初めてそのアイデアを試したとき、ちょうど私も関係しているプロジェクトでしたので、マスタリング・スタジオに同席していました。スチューダーのテープレコーダーの同時録音再生機能を使い、ダミーのハーフインチテープを回しながらプレイバック再生します。すると手品のように、超高域ノイズで曇っていた音楽が、窓ガラスを開け放ったように見事にベールが無くなるではないですか。更に、DSD録音という良い意味でも悪い意味でも“生々しすぎる”と感じる巨大な音楽の器が、アナログ・テープを介することで、ほどよく扱いやすい量へとナチュラルに凝縮されました。簡単に言えば、音楽が非常に聴きやすくなってくる印象です。テープヒスノイズも気にならず、まさかのアナログ・テープ録音/再生するという荒業で、メリットのみ加算されているように感じました。迷わずこのテクニックを採用したのを覚えています。

赤川:「なんとか音が変わらないで、この超高域ノイズだけ取れないものかいろいろ試行錯誤して、一番良かったのがアナログ・テープ・レコーダー。みんな面倒がらないで、DSD録音をマスタリングするときは、必ずアナログ・テープを通したほうがいいと思いますよ。」

アナログ・テープ・レコーダーを介して出力された音楽は、アナログEQのAD2055で小泉由香氏の神業マスタリングが施され、更に磨きがかかります。実際はこの後にもう一度DSD化されるので、超高域ノイズは復活するわけです。しかし、8トラック分加算された超高域ノイズが一旦リセットされているためか、DSD trioを聴いていても、私は音楽が曇っているDSD独特の症状を感じることがありません。これが “本作が最高音質である”と断言できるポイントです。

実際、本作を聴くと従来のマスター音源とは全く異なる音の感触に驚きます。名付けるならば、『ノンPCMマスター音源』というところでしょうか。アナログ・テープを介しているとはいえ、従来のアナログ・テープのマスター音源とも違う印象です。デジタルならではの懐の深さ、音の透明度の高さを感じつつ、非常に滑らかな音の手触りと言うのでしょうか。比べてみると、PCM録音がいかにザラザラしている音だったかに気付かされることでしょう。

コンプレッサーを一切使用していないのも本作の魅力。ミックス時にコンプレッサーが使われなかったのには、興味深いエピソードが存在しました。

赤川:「コンプレッサーはミックスの段階では全く使っていません。DSDレコーダー用のコンプを持ってないからというのもあるのですが、コンプをかけると超高域ノイズで音が歪んじゃうんですよ。マスター・コンプなんて挟んだら一発で歪んじゃう。コンプをかける前に、超高域ノイズを切らないとダメです。だから、もし今回コンプをかけるチャンスがあったとすると、マスタリングのときにアナログ・テープ・レコーダーを挟んだ後じゃないと。今回はマスタリングでもコンプを使っていないので、全くのノーコンプ作品です。」

マスタリングの小泉氏は、コンプレッサーを使わずアナログEQだけで音圧を高めるというスタイルです。これは同業のエンジニアからも“神業”と呼ばれるほどの匠のテクニック。複数の要因がプラスに働き、コンプレッサーという圧縮から解放されたサウンドが魅力の本作が誕生したのです。

■ CD規格よりも圧倒的に鳴らしやすいDSD音源の魅力

DSD trioの発表会が催されたときのこと、驚いたの出来事がありました。当然ながらCD盤とDSD音源の比較試聴が行われました。結果はDSD再生の圧勝。当然といえば当然の結果なのですが、その音質差があまりに激し過ぎます。私はCD規格が十分な実力を発揮できていないようにすら思えました。しかし、ハッと気付いたのです。確かにCD盤は再生技術が向上することで更に高いレベルでの再現は可能でしょう。しかし、同じポンと鳴らしただけでも、DSDならば音楽制作スタジオと遜色の無いサウンドを簡単に得ることができるのです。

ちょうど新しい機材の納品でマスタリング・スタジオ“Orange”さんを訪ねる機会がありましたので、エンジニアの小泉由香氏にDSD trioのマスタリングについて直接確認してみました。

小泉:「CD盤とDSD版のマスタリングEQは共通です。最近、マスタリングEQの新技を編み出したので、DSD trio ではCD/DSDともにそのテクニックを使いました。つまり、AVALON/AD2055のEQセッティングはCDとDSDで同じです。ただし、DSDのみ規格的に6dB小さく仕上げなければならないので、レベルは異なります。」

それではCDとDSDの波形データを見比べてみましょう。




DSDのほうが圧倒的に小さいのが波形からも確認できます。つまり、CDとDSDを聴き比べるときは、アンプのボリューム位置が同じではいけません。DSDを再生するとき、まずはCDと同じ音量感で聞こえるまで、グイッとボリュームをアップさせてください。音量さえ揃えれば、圧倒的なDSDサウンドの本質に触れることができるでしょう。

私はDSD規格を再生するときには、DS-DAC-10を使用しています。販売出荷台数から、最も多くの方がDS-DAC-10でDSD方式を楽しんでいると考え、皆さんと同じマシンでチェックしてみようと思ったためです。実際にはDS-DAC-10のボリュームツマミを交換してチューニングしていますが、価格が信じられないくらいの音質でDSD音源が楽しめて驚いています。なんと、DSD trioを聴くと、この安価なDS-DAC-10のDSD音源再生が、マスタリングのリファレンスとしても使われているDAコンバーターの44.1kHz/16bit再生を超えているというのが現状。DAコンバーターの価格差としては約8倍ですから、DSD音源の恩恵たるや驚くばかりです。いよいよCD規格を超える未来のサウンドが我が家にやってきたと実感しています。

■ DSD trioの今後

DSD trioは、オーディオ誌でDSD規格でのライブ録音が記事になったことがあります。ぜひそのライブ音源も聴いてみたいものです。井上鑑氏にDSD trioの今後の展望を尋ねてみました。

井上:「DSD trioはライブをDSD収録するというところからスタートしたんですけど、やはりその場にいるお客さんにも届けなきゃいけないというところで、音楽に集中して録るにはライブではある意味限界があります。やっぱりスタジオで録音用にマイクを立てて、録音は録音でやったほうがいいねという話から、今回の新作が生まれました。すごく楽なんですよ、この3人組は。もちろん決まっている曲は、ちゃんと決まった通りにやらなくてはいけないんですけど、その決まった通りというのも幅がもの凄く広い。クリックでテンポを確認するとか、全くそういう感じではないので、音楽的に自由なんです。まだアイデア段階ですけど、例えば録音だけのセッションはどうでしょう。PAを気にしないで良ければ、生音の響くところで、不思議なマイキングをしてDSD録音っていう挑戦は、ぜひやってみたいですね。」

お客さんを入れてのライブDSD録音!ぜひ実現していただきたいものです。そしてその当日は、万難を排し私も参加したいと思います。

ベーシストが居ないことで自由に羽ばたく井上氏のハーモニー。ベーゼンドルファーのピアノは限りなく深く美しく、シンセベースは太く大地を揺るがします。グルーヴが立体的に絡み合うのは、まさにディザノイズ軽減の賜物。ドラムとパーカッションは、まるで打面が見えるようにリアルで、シンバルは黄金の輝きを放ちます。DSD trioを聴かずして、DSD音源は語れません。迷わず聴いてみてください。2014年の太鼓判ハイレゾ音源大賞の最有力候補の誕生です!

『LISTEN』(DSF 5.6MHz/1bit)
/DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう



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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。

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