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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第12回

2014/08/01
選りすぐりのハイレゾ音源をご紹介していく当連載。第12回を迎えた今回、タイトルから“辛口”が抜けました。なぜ?もう辛口は止めたのでしょうか??まずはその訳からスタートいたしましょう!

※連載第11回「『Mozart: Fantasia in C Minor, K.396; Piano Sonatas』 Alfred Brendel~ウィーンの風とともに、巨匠のピアノを仮想実体験する~」は、権利者の都合により該当作品の配信が中止となった為、記事を取り下げさせていただきました。何卒ご了承ください。
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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
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『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう
~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~

【前編】

■ お知らせ: 辛口から厳選へ、連載タイトルを少しだけリニューアル

本編の前に、連載タイトル変更のお知らせです。連載が続くとともに“辛口”という意味合いが変わってきました。“辛口レビューでハイレゾを一刀両断”という当初の考えから、“辛口でハイレゾ音源を選別していく”へと、スタイルが自然と変化してきたのです。読者の方からは、「いっそ、辛口を返上して連載タイトルを変更したほうがいいのでは?」という厳しいご意見も。ん、タイトル変更?なるほど、辛口の選別スタイルを返上する気はありませんが、紛らわしいのならばタイトル変更はアリかもしれません。ハイレゾ音源を辛口に吟味してチョイスする=厳選です。というわけで、タイトルを少々リマスタリング。これからも厳選というタイトルに恥じぬよう、更に激辛に、本当に音の良いハイレゾ音源だけを選び、太鼓判を押していきます。今後とも応援よろしくお願いいたします。

■ いよいよDSD音源のリファレンス作品が誕生

DSD規格がこれから普及していくには、何か牽引してくれるような必殺の高音質作品が必要だと考えていました。96kHz/24bitなどのPCM系ハイレゾは再生機が多いのですが、DSD規格は新しい機器に再生機能が搭載され始めたばかり。つまり機器買い替えを余儀なくされる新フォーマットなのですから、従来のCD再生やPCM系ハイレゾ再生では到達できなかった圧倒的な魅力あるサウンドが必要です。音楽好き、オーディオ好きのハートを鷲掴みにするインパクトを持つDSD音源の登場が切望されてきました。そして、私は出会ってしまった。今回ご紹介するDSD trioの『LISTEN』です。

DSD trioのピアノ/キーボードの井上鑑氏、レコーディング&ミックスの赤川新一氏、マスタリングの小泉由香氏は、私の著書2冊の添付CDと同じメンバー。ただし、お仕事をご一緒したのと、今回のDSD最高音質という評価は全くの無関係です。贔屓目などは一切無く、それはもう単純に「音楽を聴いて、驚き、感激した」という実体験からの太鼓判です。高い到達点のサウンドを聴き、先を越されて「やられた!」と感じると同時に、祝福の気持ちでいっぱいになりました。

今回は前・後編の2回に分けて、DSD trioの『LISTEN』について解説します。DSD trioのメンバーとエンジニア赤川新一氏へのインタビュー、そしてマスタリングの小泉由香氏への取材と、DSD最高音質がどのように誕生したのか、そして私の立てた高音質への仮説が裏付けられるかどうか、徹底取材した結果のレビューです。


■ 10年前のDSD方式との出会い

DSD録音と私の出会いは少し古く、10年くらい前になるでしょうか。ちょうど、SACD規格が立ち上げされてすぐのころです。そのころ私はサラウンドスタジオの運営をしており、葉加瀬太郎さんやEXILEさんの5・1サラウンド作品に関わることができました。そして幸運なことに、そのサラウンドスタジオは、当時はまだ10数社程度と数少なかったSACD音源を製作することのできるスタジオのひとつに認定されていたのです。そのため、DSD録音とは、早い段階から関わることができました。DSDレコーディングに初めて立ち会ったときの驚きを、今でもはっきりと覚えています。DSD初体験は、DSDとPCMを変換して比べるといった単純なものではなく、生楽器の演奏をレコーディングでProtoolsの192kHz/24bit録音とPyramixのDSD録音を同時に走らせ、それぞれプレイバックしたものを比べるという贅沢な比較でした。当然、比較対象の基準となるのは、生演奏をそのまま鳴らしたモニタースピーカーのサウンドです。

生演奏をそのままスピーカーから出力したサウンドは、それこそオーディオの夢。理想のサウンドが目の前に広がります。果たして、この生々しさに録音結果がどこまで迫れるのか。まず、192kHz/24bit録音を聴きました。192kHz/24bitは当時のPCM録音最高規格ですから、もちろん鮮烈で素晴らしいサウンドです。まだ一般家庭のシステムで聴ける音源がCD規格44.1kHz/16bitだけの時代。192kHz/24bitの音ですら夢心地であり、CD再生とは全くの別世界でした。「早くこの音を我が家でも!」と願ったものです。とはいえ生演奏のプレイバックと厳密に比較すると、192kHz/24bitは録音物の音という域は出ていません。はっきりと「こちらがPCM、こちらが生音」と言い当てることができるくらい、音の鮮度に差があります。

次にDSD録音を試聴。驚くべきことに、プレイバックの印象と全く同じサウンドが、DSD再生から飛び出したのです。今この目の前でミュージシャンが演奏しているかのような音が、まさか録音物から聴こえてくるとは・・・。細かくチェックすると違いがあるのかもしれませんが、その場に居たミュージシャンやエンジニアなど関係者全員をノックアウトしたサウンドであったことは間違いありません。DSD規格の登場で、録音新時代の到来を感じた瞬間でした。

しかし、DSD方式には、まだまだ解決しなければいけない問題が山積みです。どいうのも、そのとき実際に仕上がったSACD盤をSACDプレーヤーで再生しても、レコーディング当日のあの感動は、残念ながら蘇らなかったのでした。DSDマスターとSACDディスクに収録された音とは、再生音が別物という印象です。SACD盤の再生は、DSDマスター音源よりも少し穏やかで優しい音になるという感じでしょうか。その原因の究明と解決には、まだまだ時間が必要なのかもしれません。

この10年で更に時代は流れ、プレス量産したSACD盤を回して再生するのではなく、DSDデータをそのまま再生して音楽を楽しめる時代が到来しました。なんと素晴らしいことでしょう。今回の太鼓判ハイレゾ音源は、まさにそのDSD録音の魅力を完璧に楽しめる作品です。

■ 全てのハイレゾ音源の中で、今のところ最高音質の作品に出会った!

このDSD trioは、現在配信されているハイレゾ音源の中で、間違いなく最高音質であると断言しましょう。好みの音楽ジャンルに関係なく、DSD 5.6MHz規格の再生システムを持っている方ならば、必ず聴いてみていただきたい作品です。自信を持ってお薦めします。

『LISTEN』(DSF 5.6MHz/1bit)
/DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう



実際に聴けば、誰もが迷わず“凄い音だ!”と感じるのではないでしょうか。本作が最高音質の偉業を成し遂げたのには、きちんとした理由が2つあります。

ひとつは、当然ながらミュージシャンが最高ということ。プロの演奏家は、楽器が上手く弾けるのは当たり前。しかし、プロミュージシャンという範疇で実力が全て横並びかというと、全くそんなことはありません。仮にミュージシャンのオリンピックやワールドカップがあるとしたなら、DSD trioのメンバーはキーボード、ドラム、パーカッションの日本代表有力候補といえるでしょう。しかも日本代表というだけでなく、金メダル候補でもあることは間違いなし。それほど本作は、別格のミュージシャンによる演奏だということをまず知ってください。

演奏が上手いということと、音質が良いということは、実は直結しています。金メダル級ミュージシャンの音は、飛びが違うのです。音にエネルギーがあるというのでしょうか。マイクやレコーディング機材の差、ましてや録音フォーマットの差など、軽く吹き飛ばすくらいの音力(おとぢから)があります。もともと音にパワーがある最高ミュージシャンが終結し、更にDSDという新世代の高音質フォーマットで録音を行ったのです。もちろん、その結果は最高音質を達成する条件が十分に満たされていたのでした。

ミュージシャンの技量は、DSD録音の“直しが難しい”とい問題も解決してくれます。本作はミュージシャンが「せーの」で演奏する一発録りを多用し、しかもそれがほぼワンテイクで完成しているというのですから驚きでしかありません。「テイク数は、最初のころは音を決めるまで少し試行錯誤があるんですが、基本的にワンテイクから数テイクでした。」と井上鑑氏。細かい音程やリズムの修正、演奏のやり直しといった現代録音の当り前は、このワールドクラスのミュージシャンとなると必要無くなるのです。なんともDSD録音方式とマッチングしたトリオ演奏ではないでしょうか。

そして、もうひとつのポイント。理解するのは難しいかもしれませんが、これが最高音質達成への最大の秘密です。DSD trioの『LISTEN』は、特殊な方法を使って、DSD規格の大きな欠点を克服しています。

本作はKORG Clarity 8chを使って録音され、KORG MR-2000Sで2chミックスを製作。その2chミックスデータをUSBメモリでマスタリング・スタジオに持ち込み、以下の手順でマスタリング作業が行われました。

①DSD 5.6MHzのミックスデータをTASCAM DA-3000で再生し、アナログ出力
     ↓
②テープレコーダーSTUDER A-820で録音/再生(1/2インチ 76cm/s)し、アナログ出力
     ↓
③AVALON AD2055でマスタリングEQを行い、アナログ出力
     ↓
④KORG MR-2000SにてDSD 5.6MHz/1bit変換

問題は、②番の工程。なぜかアナログ・テープ・レコーダーが挿入されています。常識では全く理解不能でしょう。ハイレゾ・マニアなら、「どうしてDSD録音データをそのまま配信してくれないのか?」と疑問に思うことでしょう。ここに最高音質の秘密があります。

・・・(後編へつづく)

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筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず)
3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。

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