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【6/1更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/06/01
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
クイーン『Sheer Heart Attack』
大ヒット「キラー・クイーン」を生み、世界的な成功へのきっかけともなったサード・アルバム。


僕には、同い年のSくんという従兄弟がいます。しかしこれまで、彼との交流はほとんどありませんでした。

初めて会ったのが小学校4年のときで、その後、中学校1年のときに二度ほど会い、あとは20代になってから1回すれ違ったくらいかな?

疎遠になっていたのは、どうやら親同士の間でいろいろあったことが原因らしいのです。まぁ、そういう話はどこにでもありますよね。もちろん親の話なので僕らには無関係なのですが、そうなると必然的に会う機会は限られることになったわけです。

「おまえら、N響に行くか?」

中学1年だった1975年の正月、大人たちが酒を飲んでちゃんちゃか盛り上がるなか、Sくんの父親であるNおじさんが言うのでした。

何十年もあとになってから聞いたところによると、Nおじさんはクラシックが好きで、NHK交響楽団の会員だったらしいのです。ところが仕事が忙しく、いつも行けずにチケットを無駄にしていたということなのでした。

だから、代わりに僕らを行かせようと思いついたというわけ。一度、生でクラシックのコンサートを聴いてみたいと思っていたので、「行く!」と即答したのは言うまでもありません。

ちなみにその後の自分にとって、初めて聴いたオーケストラがN響だったことにはとても大きな意味があったといまでも思っています。知識は全然ないのですけれど、あのとき“本物”を耳にしたからこそ、いいものと、そうでないものの差は感覚的にわかるようになったので。

ともあれ、そんなわけでSくんと僕は、それから少し経ったある夕方、渋谷のNHKホールで待ち合わせたのでした。たしか3月だったと思うのですが、N響のサイト内の「演奏会記録」を確認してみると、この月には岩城宏之さんがベルリオーズの「ローマの謝肉祭」を指揮しています。記憶は曖昧だけど、おそらくそれだったんじゃないかなー。

しかし、そんなことより問題は、Sくんとの間の取り方です。なにしろ同い年とはいえ、そのときは(正月の宴会を含め)会うのが3回目だったのです。どんな態度で接すればいいのか、なにを話したらいいのか、なにもわからなかったわけです。

それは向こうも同じだったようなのですが、とりあえずは開演までの時間、NHKホール内の喫茶店に入ることにしました。ただし話題はないので、テーブルをはさんで向き合ったまま、お互いに下を向いていました。

「“キラー・クイーン”かぁ……」

空気がどんどん重たくなっていくなか、沈黙を破ったのはSくんでした。しかも話題はクラシックとはほど遠く、そのとき流行っていたクイーンのヒット曲でした。つまり、彼も話題を探していたのです。

「え、クイーン好きなの? かっこいよね!」

もちろん、僕も即座に反応しました。そして、以後はクイーン談義に花が咲き、緊張した空気が一気に晴れました。そこでSくんが“キラー・クイーン”の話題を出したことは、まさに大正解だったとしか言いようがありません。

なぜってそれは、洋楽の魅力を知った思春期の中学生であれば、誰でも反応してしまう楽曲だったからです。

しかもクイーン自体が、とてつもなく魅力的なバンドでした。クイーンの世界観は、ロックの範疇にありながらも、決してそこに収まりきらないものでした。だから多感な世代の感性を、ぐいぐい刺激しまくったわけです。

そして、数回しか会ったことがなく、少し離れたところに住んでいるSくんと僕との距離は、それがきっかけとなって一気に縮まったのでした。

“キラー・クイーン”を収録した『Sheer Heart Attack』は、1974年の暮れにリリースされたクイーンのサード・アルバム。“キラー・クイーン”の他にも“ナウ・アイム・ヒア(邦題「誘惑のロックンロール」”“リリー・オブ・ザ・ヴァリー(「谷間のゆり」)”がシングル・ヒットしましたが、このアルバムから彼らの名声がワールドワイドに広がることになったのでした。

ブライアン・メイのアグレッシヴなギターと、フレディ・マーキュリーの扇情的なヴォーカルが痛快な“ブライトン・ロック”で幕を開け、そこから“キラー・クイーン”へと続いていく流れがすでに完璧。

ミステリアスな“テニメント・ファンスター”“フリック・オブ・ザ・リスト”、フレディの高音が強烈な“神々の業”、ポップで爽やかな“ミスファイアー”、締めにふさわしくゆったりとして感動的な“神々の業”などなど、他の楽曲も文句なし。

というよりも無駄が楽曲がひとつとして存在しないので、全13曲を一気に聴き通すことができます。

しかもe-onkyoに用意されているのは、オリジナル・ファースト・ジェネレーションのマスター・ミックスを、最新のアナログとデジタル技術によって再構築したもの。そのせいか立体感が強烈で、目の前でメンバーが演奏しているかのようなリアリティがあります。

だからこそ、当時“キラー・クイーン”を筆頭とした楽曲群にインスパイアされたことがある人には、特に体験してみていただきたいと思います。きっと、ダイナミックなサウンドの向こうから、あのころの記憶が蘇ってくるはずです。

先にも触れたとおり、クイーンとN響で盛り上がったとはいえ、その後もほとんどSくんと会うことはありませんでした。でも一昨年の暮れに、ちょっとした出来事があったのです。

ある日、フェイスブックの「友達かも」というお節介なサービスに、彼の名前と写真が表示されたのです。機会があったら再会したいなと思っていたので、それは間違いなくチャンスでした。

そこでメッセージを送ってやりとりをし、クリスマス前の変な時期に約40年ぶりの再会を果たしました。

親同士はいろいろあったようだけれど、それはSくんと僕には関係のないことだと考えるべきだと思っている。もちろん、うちの親に非があったならそれは謝るけれど、これを機会に僕らは僕らで従兄弟同士のつきあいを再会したい。

神田のバルで飲みながら、そんなことを伝えました。彼も、そのことに同意してくれました。距離を縮めるまでにずいぶん時間がかかった僕らのつきあいは、これからスタートするのかもしれません。

というところで終われればいいのですが、ここ数ヶ月、連絡がつかなくなってしまったので、ちょっと心配しています。話してみると、彼の家族にもいろいろ問題があるようだし、もしもそれをひとりで抱え込んでいるのだとしたら、それはきついだろうなぁと思って。

いまはただ、また連絡がつくことを祈っている状態です。




◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『Sheer Heart Attack]』
/ Queen






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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」