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【4/12更新】 印南敦史の名盤はハイレゾで聴く

2018/04/12
ひょんなことからハイレゾの虜になってしまった、素直さに欠けたおじさんの奮闘記。毎回歴史的な名盤を取り上げ、それをハイレゾで聴きなおすという実験型連載。
月間50本以上の書評を執筆する書評家であり、ベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』の作家としても知られ、更にヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の音楽評論家としての顔を持つ印南敦史による連載「印南敦史の名盤はハイレゾで聴く」。
ディアンジェロ『Brown Sugar』
「ニュー・クラシック・ソウル」というカテゴリーを生み出した先駆者は、ハイレゾとも相性抜群!


1990年代中期のR&Bシーンに「ニュー・クラシック・ソウル」というカテゴリーが誕生し、大きな話題を呼んだことがありました。

簡単にご説明すると、70年代ソウル・ミュージックの質感を、現代的な感覚で再生しようとした動き。

70年代初頭にスティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、カーティス・メイフィールドらが先導した、「ニュー・ソウル・ムーヴメント」の影響下にあるといえます。

とはいえ、実はこういう原点回帰的な動きは、80年代中期にもあったのです。それは「レトロ・ヌーヴォー」と呼ばれたもので、たとえばアニタ・ベイカーは、このとき登場した代表的なシンガー。

アニタ・ベイカーがヒットしたころはランDMCなどのヒップホップ全盛期だったのですが、そうした流れに抗うようにレトロ・ヌーヴォーのようなベーシック・スタイルが評価されたのは、なんだかおもしろい現象だなと感じたのをおぼえています。

でもさらに興味深いのは、そこからおよそ10年後に登場したニュー・クラシック・ソウルが、レトロ・ヌーヴォーとはまた違ったかたちでヒップホップとの関係性を示してみせたこと。

上記のようにレトロ・ヌーヴォーは「ヒップホップのような音楽とは別もの」というスタンスだったわけです。「なんか刺激の強い新しい音楽が出てきたけど、あくまで自分たちはベーシックにいくんで」みたいな感じ。

しかしニュー・クラシック・ソウル系のアーティストは対照的で、70年代ソウルのエッセンスとヒップホップの感覚を、同じ目線で吸収してしまえるような柔軟性を持っていたのです。

“時代”の影響だと思います。90年代中期といえば、80年代以上にヒップホップが浸透した時期。その空気感や感性を無理なく吸収できるアーティストが出てくるというのは、むしろ当然の流れだったということ。

で、そんなニュー・クラシック・ソウルの先駆者的存在であり……というよりも、彼が出てきたことによりこの新語が誕生したわけなのですけど、とにかく彗星の如く登場し、大きな評価を得ることになったのが、今回ご紹介するディアンジェロです。

きっかけとなったのは、1995年に突如リリースされたデビュー・シングル「Brown Sugar」。明らかに70年代ソウルの影響下にあり、それでいてヒップホップ的な質感も備えたこの曲は、R&Bリスナーのみならずヒップホップ・フリークスのマインドをもがっちりと捉えたのでした。

同じことは、次いでリリースされた同名アルバムにも言えます。なにしろ大ヒット・シングルの「Brown Sugar」「Lady」の説得力もさることながら、他の楽曲にもおしなべて高い完成度が反映されていたからです。

メロウなグルーヴとヒップホップ・ビートとの相性が絶妙な「Alright」や「Jonz in my Bonz」、ソウルフルなファルセット・ヴォイスが心地よい「Me and Those Dreamin’ Eyes of Mine」などなど、淡々と、しかし強い存在感を感じさせる楽曲群は、古いソウル・ファンから若いリスナーまでをも夢中にさせたのです。

ちなみに古いソウルといえば、スモーキー・ロビンソンの名曲「Cruisin’」をカヴァーしている点も注目に値します。比較的忠実に再現しているのですが、それでも現代的な感覚ははっきり表れているので、スモーキーのオリジナルと聴きくらべてみるのも楽しいでしょう。

そしてもうひとつ、今回この原稿を書こうと思って気づいた重要なポイントがあります。

ハイレゾで聴きなおしてみると、レコーディングのクオリティの高さをいやというほど実感できるのです。

「Brown Sugar」の音の粒立ちがまず素晴らしいし、「Smooth」や「When We Get By」「Higher」などは、まるで目の前で生バンドが演奏しているかのようなリアリティ。

正直なところ、1996年のリリース当時はサウンド・クオリティにまで気が回らなかったのですが、いま改めてハイレゾで聴いてみるととにかく圧倒的。きわめてハイレゾとの親和性が高い作品だと実感できるはずなので、ぜひとも聴いてみていただきたいと思います。

ところでディアンジェロは、寡作のアーティストとしても知られています。なにしろ本作以降、世に送り出したのは1996年の『Live at the Jazz Café, London』、2000年の『Voodoo』、そして2014年の『Black Messiah』だけなのですから。

つまりスタジオ・レコーディング・アルバムは、18年で3枚のみ。にもかかわらずアルバムがリリースされるたびに話題を振りまくことになるのは、彼の才能が大きく評価されているからだといえます。

なお、このうち最新作の『Black Messiah』もハイレゾ化されていますので、『Brown Sugar』にピンときたらぜひチェックしてみてください。こちらも、他の誰にも決して真似のできない強烈なオリジナリティによってリスナーを驚かせてくれる作品なので。




◆今週の「ハイレゾで聴く名盤」


『Brown Sugar』
/ ディアンジェロ



『Black Messiah』
/ D'Angelo and The Vanguard


『Rapture』
/ Anita Baker


『Where There's Smoke...』
/ Smokey Robinson






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印南敦史 プロフィール

印南敦史(いんなみ・あつし)
東京出身。作家、書評家、音楽評論家。各種メディアに、月間50本以上の書評を執筆。新刊は、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)。他にもベストセラー『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)をはじめ著書多数。音楽評論家としては、ヒップホップなどのブラック・ミュージックからクラシックまでを幅広くフォローする異色の存在。

ブログ「印南敦史の、おもに立ち食いそば」