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連載『厳選 太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』 第57回

2018/03/30
2013年から続くロングラン連載。根っからの音楽好きの筆者が、全てのプロモーションを排除し、“高音質なハイレゾ” をキーワードにお宝音源を探し続ける音源レビューの旅。実際に聴いて選び抜いた太鼓判ハイレゾ音源の数々は、バックナンバーにて全てチェック可能です。さて、今月はどんなハイレゾと出会うのでしょうか?
『ドリームス』シーネ・エイ
~ 部屋の照明を落として聴きたい、ハイレゾ女性ボーカルはこれだ! ~



タダでオーディオの音を良くする方法

20年前のお話。私がオーディオのお仕事を始めたころ、運良くレコーディングスタジオで録音エンジニアさんと一緒に試聴する機会に多く恵まれました。そのころ感じていたのは、「エンジニアさんは、自分よりもはるかに多くの音楽情報をキャッチしている」ということです。同じスピーカーから鳴っているはずの音楽なのに、聴き取れる情報量が桁違い違う。音楽リスニング能力には、決して敵わないプロの世界がある・・・。その実力に圧倒され、悔しくて、情けなくて、もがいていた20年前でした。

オーディオでよく交わされる会話に「私、耳が良くないんですけど~」というのがあります。実はこれ、私の経験からすると、耳の良し悪しはオーディオのリスニング能力の優劣に、あまり関係がありません。いわゆる聴力の何ヘルツまで聴こえるといった能力は、年齢とともに低下していきます。20年前なら私も今より超高域まで聴こえていたでしょうが、それでもエンジニアさんには完敗でした。どうも聴力そのものは、音楽リスニング能力の優劣の原因では無さそうです。

では聴力の差異ではないとすると、どこに音楽リスニング能力の勘どころはあるのでしょうか? それはまさに、“音楽をキャッチするアンテナ” にあるのです。

こう書くと「またまたオカルトな話ですね~」となるのでしょうが、私は大真面目。例え話として、パソコンで音声を録音する場合を考えてみてください。聴力をマイクとしましょう。マイクの性能は、もちろん必要です。加えて、パソコン自体の性能が高いことが大切なのは、簡単にご想像いただけると思います。パソコンのCPU性能や、良質な録音ソフトのインストール。これが私の言うところの、“音楽をキャッチするアンテナ” の正体です。

では、このアンテナの存在を簡単な実験で明らかにしてみましょう。パソコンの例から考察すると、CPU性能を録音に集中させると良さそうです。つまり人間のCPUに他の処理をさせないようにすれば、リスニング能力はアップするはず。そこで夜に部屋の電灯を消して、視覚情報を遮断します。目を閉じて聴いても良いのですが、そうすると “目を閉じ続ける” という命令にCPUを使ってしまいます。原始的ですが、部屋を暗くするのが、動画情報処理を遮断する一番簡単で効果的なアイデアです。

目からの映像入力が無くなると、人間のCPUは音声処理に能力を集中します。すると、音楽リスニング能力が格段にアップし、同じスピーカー、同じイヤホン/ヘッドホンから鳴っている音が、今までより良くなって聴こえてくるから不思議。オーディオ屋さんが薄暗い照明なのは、この現象を上手く利用している例と言えるでしょう。

自分自身の音楽リスニング力に、まだ眠っていた潜在パワーがあることを知る。これは重要なことで、あとはこの能力を自在にコントロールできるように練習すれば、機器を買い換えなくともタダでオーディオの音を良くすることができます。まずは電気を消して、自分の秘めたるパワーに驚いてみてください。


「ジャズオーディオ・ディスク大賞2017」のボーカル部門から、太鼓判ハイレゾ音源を探す!

今月は女性ボーカルが聴きたいな~ と思っていたら、e-onkyoさんで良い特集を見つけました。『ジャズ批評「ジャズオーディオ・ディスク大賞2017」掲載作品』です(http://www.e-onkyo.com/news/999/)。このボーカル部門から選んだ太鼓判ハイレゾ音源がこれ!


『ドリームス』シーネ・エイ
(96kHz/24bit)



「ジャズオーディオ・ディスク大賞2017」ですから、もちろん作品内容は素晴らしいものばかりに決まっています。あとは、音楽が、歌声が好みかどうかでしょう。今回は、その音質に焦点を当てチェックしてみることにしました。

全部聴いてみた中で、『ドリームス』が一番のお気に入り。楽器編成や、独特な艶っぽい雰囲気。女性ボーカル・ジャンルの、新しい試聴リファレンス決定版の登場と言えるでしょう。

ハイレゾならではの音の感触が味わえます。この余韻、余裕、音の柔らかさ、サウンドステージの広さは、CD規格では実現するのは困難です。ぜひハイレゾで聴いていただきたい、いや、ハイレゾで聴くに相応しい音楽だと感じました。

オーディオ的に注目するのは、ボーカルの定位。きちんとスピーカー間の真ん中に、そして少し自分に近づくような位置で、シーネ・エイさんが色っぽく歌ってくれているでしょうか? 最近の録音では、この定位感が緩い音源が多く、これでは肝心の歌心がリスナーに届きません。理想は、声の肉厚が薄まることなく、強くエフェクトされることもなく、自然に目の前で歌っているように定位してほしいものです。『ドリームス』では、それが見事に実現しています。

ドラムの音が素敵なのもチェックポイント。シンバル類が、カンやチンといったチープな音ではなく、クワァァ~ンと鳴る快感。シンバルは鉄でもアルミでもステンレスでもなく、素材はあくまで真鍮なんだと再確認できるサウンド。ドスッ、ズバンと腹にくるスネアやバスドラムも快感です。

夜、少し電気を暗くして、ゆっくり楽しむという意味でも、最適な女性ボーカルのハイレゾ音源だと思います。静かな曲調が多いので、なおさら夜のリスニング向きなんです。

音質的観点のみで選出した直後で、私もこれから聴き込もうと思っている『ドリームス』。さすがジャズ批評さん、良い作品をご紹介してくださる! ここ最近はハイレゾ音源のリリース数が多く、全部をチェックできるわけがなくなってきました。自分の経験値だけでは、どうしても新しい音楽との出会いは限定されてきます。店頭のCD試聴機のような感覚で今回のような特集を楽しめば、音楽の選択肢が増えてくれそうです。大歓迎の『ジャズ批評「ジャズオーディオ・ディスク大賞2017」掲載作品』特集企画でした。自分に無かった選択肢から選べた太鼓判ハイレゾ音源に、今夜は乾杯!


【おまけ】

実は、「ジャズオーディオ・ディスク大賞2017」のボーカル部門に、もうひとつ音質の良い作品がありました。


『Grace』リズ・ライト
(96kHz/24bit)



ボーカル部門全作品が音楽的に素晴らしいですが、音質的には『ドリームス』と『Grace』の2強といった感じ。どちらを太鼓判に選ぶか最後まで悩んで、「自分がオーディオをイベントで鳴らすとすれば、どちらか?」という基準から、最終的に『ドリームス』を選びました。

サウンド的には、空間表現が気持ちいい『ドリームス』、ガツンとくる『Grace』で甲乙付け難し。もしかすると『Grace』の方が鳴らしやすいかも? 試聴して、気に入った歌声の方を選んでみては如何でしょう? 『Grace』も、超高音質なハイレゾ音源として、大いにプッシュさせていただきます。



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【バックナンバー】
<第1回>『メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス』 ~アナログマスターの音が、いよいよ我が家にやってきた!~
<第2回>『アイシテルの言葉/中嶋ユキノwith向谷倶楽部』 ~レコーディングの時間的制約がもたらした鮮度の高いサウンド~
<第3回>『ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」(1986)』 NHK交響楽団, 朝比奈隆 ~ハイレゾのタイムマシーンに乗って、アナログマスターが記憶する音楽の旅へ~
<第4回>『<COLEZO!>麻丘 めぐみ』 麻丘 めぐみ ~2013年度 太鼓判ハイレゾ音源の大賞はこれだ!~
<第5回>『ハンガリアン・ラプソディー』 ガボール・ザボ ~CTIレーベルのハイレゾ音源は、宝の山~
<第6回> 『Crossover The World』神保 彰 ~44.1kHz/24bitもハイレゾだ!~
<第7回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー前編
<第8回>『そして太陽の光を』 笹川美和 ~アナログ一発録音&海外マスタリングによる心地よい質感~  スペシャル・インタビュー後編
<第9回>『MOVE』 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト ~圧倒的ダイナミクスで記録された音楽エネルギー~
<第10回>『機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック』 3作品 ~巨大モビルスーツを感じさせる、重厚ハイレゾサウンド~
<第12回>【前編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第13回>【後編】『LISTEN』 DSD trio, 井上鑑, 山木秀夫, 三沢またろう ~DSD音源の最高音質作品がついに誕生~
<第14回>『ALFA MUSICレーベル』 ~ジャズのハイレゾなら、まずコレから。レーベルまるごと太鼓判!~
<第15回>『リー・リトナー・イン・リオ』 ~血沸き肉躍る、大御所たちの若き日のプレイ~
<第16回>『This Is Chris』ほか、一挙6タイトル ~音展イベントで鳴らした新選・太鼓判ハイレゾ音源~
<第17回>『yours ; Gift』 溝口肇 ~チェロが目の前に出現するような、リスナーとの絶妙な距離感~
<第18回>『天使のハープ』 西山まりえ ~音のひとつひとつが美しく磨き抜かれた匠の技に脱帽~
<第19回>『Groove Of Life』 神保彰 ~ロサンゼルス制作ハイレゾが再現する、神業ドラムのグルーヴ~
<第20回>『Carmen-Fantasie』 アンネ=ゾフィー・ムター ~女王ムターの妖艶なバイオリンの歌声に酔う~
<第21回>『アフロディジア』 マーカス・ミラー ~グルーヴと低音のチェックに最適な新リファレンス~
<第22回>『19 -Road to AMAZING WORLD-』 EXILE ~1dBを奥行再現に割いたマスタリングの成果~
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<第52回>ピアノのライブを聴くなら、これだ!~ 強烈なグルーブと音楽エネルギーで、目の前にピアノが出現する ~/a>
<第53回>
『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』~ 試聴テストに最適なハイレゾ音源は、これだ! ~
<番外編>『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』を、イベントで実際に聴いてみた!
<第54回>最新ロサンゼルス録音ハイレゾを聴くなら、これだ! ~『22 South Bound』『23 West Bound』~
<第55回>『Franck, Poulenc & Strohl: Cello Sonatas』Edgar Moreau~ エドガー・モローのチェロに酔うなら、これだ! ~
<第56回>『大村憲司 ~ ヴェリィ・ベスト・ライヴ・トラックス』大村憲司~ ライブの熱気と迫力を聴くなら、これだ! ~


筆者プロフィール:

西野 正和(にしの まさかず) 3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛するとっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。オーディオ・メーカー 株式会社レクスト代表。音楽制作にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。自身のハイレゾ音源作品に『低音 played by D&B feat.EV』がある。『厳選! 太鼓判ハイレゾ音源ベストセレクション キングレコード ジャズ/フュージョン編』をプロデュース。